全年全月6日の投稿[156件](2ページ目)
リュウ
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みなつむSS だれかの日記
―月―日
今日はアイドリッシュセブンの晴れ舞台!ライブの日の彼らは何度観ても、どこから見ても、むしろ見る度にどんどんすごくなる!私の自慢のアイドル。私の自慢の虹!
うーん、もっと演出勉強して、今日よりもみんなを輝かせたいな。
そういえば今日は皆さんを招待してたんだ。彼にも……今日の感想、聞いてみようかな。
―月―日
最近、ちょっと忙しい。空き時間に勉強してるからかも。スキマ時間以外はずっと仕事。
あ、そういえば……連絡、返したっけ?返してないかも……今からラビチャ返そう。怒ってない……よね?
―月―日
しばらく日記書くのも忘れてた。
疲れたなあ。
会いたいな。
―月―日
今日、久々に彼に会った!お仕事だったのに、帰りに家に寄ってくれた。
夕ご飯を一緒に食べた。今日の煮物はお口にあったみたい。彼の好物はメモしてるから、追加しておこうかな。
―月―日
あー。生理近づくと、こう……アレだね、アレ……むらっとするというか……。
日記だとなんでも書いちゃうな。
最近、彼とそういうことないな。私も彼も忙しくてそもそも会えてないしね。
一日中ずっとそういうことする日とか、欲しい……なんて、彼には内緒ね。
―月―日
体調が悪い。
経血が多い。
女ってめんどくさいなぁ……。
今日のお仕事は万理さんに代わってもらった。申し訳ないよお……。
―月―日
生理痛で寝込んでて、ふと起きたら彼がベッドにいた。びっくりした。痛み止めとお腹をあっためるものを持ってきてくれてた。
日記だから書いちゃうけど、見た目があんなにすごいかっこいいのにこんな風に気遣いも出来ちゃったり、ほんとに……私にはもったいないくらいの……でも自慢の彼!
気を使ってささっと帰ってくれた。でも……キスくらい、して欲しかったな、なーんて……。
―月―日
彼と喧嘩した。もちろん、私たちの関係性は……うん。日記にも書けない、けど。
確かに覚悟はしてた。でも、たまーに……。
街中で腕を組んでるカップルとかが、他の人の目も気にせずに「あれほし〜買ってよ〜」とか言ってるのとか……高校生カップルが手繋いで渋谷歩いてたり……カフェでデートしてる人達とか……。
あ、プレゼントが欲しいってことじゃない!違う、そうじゃなくって。
……仲直り、するべきだよね。
私が悪かったんだ。
―月―日
もう、私たち、ダメなのかなー……
……こんな仕事じゃ、恋愛なんかろくにできないか。
いや、でもまあ、彼がそもそも普通の人でもないから……。
……日記ですら色々と書けないのが、少し心苦しい。
―月―日
びっくりした。今日、家に帰ってきたらいつの間にか鞄にラッピングされたものが入ってて、慌てて開けたら手紙がついてた。彼からだった。
この前は私も言いすぎました。これからも私と一緒にいてくれませんか、だって。苦労はかけるかもしれませんが、貴方と一緒にいたい気持ちは同じなんです、信じられないかもしれないけれど……だって。
信じられないわけない!私だって、アイドルのマネージャーやってるから、アイドルの彼らをずっと見てるから。彼のやりたいこととか、夢とか、そういうもの、理解できないわけじゃないから。ただ、ちょっと……寂しくなっちゃった、だけだったから……。
あーあ。彼はこんなにも考えて考えて、向こうから行動も起こしてくれたのに、私といえば子供っぽいわがままばっかで困らせて……。
……プレゼント、嬉しいな。……ストールだ。……お仕事でしれっと、使っちゃっても……いいよね?
あー。誰かに自慢、したいよう……彼から貰った、って言いたいよう……。
お返し、何がいいかな。
―月―日
あの喧嘩のあとから、私に気を使ってくれてるんだと思うけど、空いてる時間に通話のお誘いが来るようになった。会うのは難しいけど、喋るのなら時間が作りやすいからって、そうやって考えてくれていたことが嬉しい。
ほんとは会いたい!もう、いまも会いたくて……ぎゅって……してほしい。……また長いこと会えてない。彼の匂いを忘れてしまいそうで、怖い。力いっぱい抱きしめてくれる時、力強くて痛いくらいなのも、忘れたくない……。
でも、声が聞けるだけでも……とっても嬉しい。さっきもちょっとだけ喋った。えへへ、いま、しあわせ。
―月―日
誕生日のお祝いをさせてくださいって言われた。覚えててくれたんだ……せっかく会っていたのに嬉しすぎて、私変な顔してなかったかな?
お店どこがいいですかって言われて、思いつくお店あげてみたけど少しだけ困った顔をされただけだった。まあ、そりゃ、やっぱ私たちじゃ、こう……年相応のカップルが行くようなミーハーなとこはダメだよね……。むしろ彼が広告になってるくらいだもんね……(これって、ギリセーフかな……日記にどこまで書いていいかいつも悩むなあ)
サプライズじゃなくてすみません、って言われたけど、むしろ楽しみができて仕事に張合いが出たって言ったら笑われちゃった。貴方は仕事ばっかり、だって。
よーし!楽しみもできたし、二週間休み無しフル活動だけど、アイドリッシュセブンのために頑張るぞ!
―月―日
体調が悪い。
疲れが溜まってるのかな。
気付いたら寝てて、彼からのラビチャ、不在ばっかり……ごめんなさい……。
―月―日
あと三日で休み。
あと三日で休み。
―月―日
ーーーー(ぐちゃぐちゃとした線がまばらに描かれているが、意図も文字も読めない)
―月―日
……もう、生きていたくない……。
みんなに、申し訳が立たない……。
週刊誌の表紙やインターネットを見るのが、怖い。
―月―日
部屋でぼーっとしてたら、いつの間にか彼がいた。お父さんが案内してきてくれたんだって言ってた。顔が合わせられなかったのに、涙止まんなくて、私が泣き止むまで抱きしめててくれた。
貴方のせいじゃありませんからねって何回も言われたけど、言われるたびに苦しくなった。
一番恐れていたことになった。
私は彼の人生を壊した……もう、何しても償いきれないよ……。
―月―日
彼、今日も来た。会いたくない、って言ってドア越しに追い返しちゃった。なんか……悲しそうだった気がする……ごめんなさい……。
会いたいよ。ぎゅってしてほしいよ。不安だよ。でも……。
……お別れ、しないと。そんでもって、広まってるスキャンダルは事実無根ってことでなんとかしないと……。
……私たち、付き合っていたことすら嘘にしなきゃいけないんだ。
彼と付き合うまでは、当然だって思ってた。有名人の熱愛発覚って、結構ショックだったし。でも、いまは……。
彼も、私も、ただひとりの人間としてお互いを好きになっただけなのに、どうしてこんなに知らない人達にやんや言われないといけないんだろう。
彼の精神が心配。でも私に出来るのは、謹慎くらい……。
―月―日
一ヶ月も引きこもってたから、現場復帰初日の今日、ガチガチに緊張しちゃった。
あっちこっちでひそひそ言われてるの聞こえてた。また彼に迷惑かけちゃったな。アイドリッシュセブンのみんなもなんかこう、腫れ物触るみたいだったし……申し訳ない……。
ずっとラビチャも無視してたから、今日彼のユニットメンバーづてに伝言を預かった。結局私の誕生日を祝えなかったから、祝わせて欲しい、いつなら空いているか、だって。こんな形で皆さんにバレるの、最悪だったな……。
……最後に。本当に最後に、会いたいって思っちゃってる自分がいる。これって……甘えても、いいのかな……。
お別れのプレゼント、用意しておこう。
―月―日
明日、彼との食事の日。
楽しみなのに、これが最後だと思うと苦しいな。変な汗ばっか出るし。色々思い出して、きついな〜……。
別れましょうって、ちゃんと言えるかな。練習していこう。
泣かないようにしなくちゃね。
―月―日
別れを切り出したら、なんか、結婚する話になってた。
……?
今日は、寝よう……久しぶりに彼と抱き合ったりしたし、頭が働いてないのかも……。今日の彼、なんか……優しかったな……。
―月―日
だんだん落ち着いてきたら冷静になってきた……けど、え!?ってなった。私、プロポーズされたってこと……?
彼に本気だったのか改めて通話で聞いてしまった。何馬鹿なこと言ってるんですかって一蹴されちゃったけど。
でも確かに、彼が言うように、結婚報道を間近に控えていました、バレちゃいましたけど、っていうのは鎮火にはいいのかも……?
……。
私、なんかうまく言いくるめられてたり、する?
―月―日
あれ、なんか……一緒に住む家の話とか決まってる……。
―月―日
引越しの日取りが決まってた。
彼が家に来て、判子あります?って聞かれたからここにありますよ〜って言ってたら、なんか婚姻届完成してた……んだよね。
明日出しに行きましょうね、って言われた。珍しく二人ともオフなので、そのままちょっとデートしましょう、だって。
うーん……?
―月―日
名字が変わった。
棗紡。
二文字になったなぁ、って思った。
デートでいっぱい手繋いでくれて、エスコートしてくれて、嬉しかったな。
もう隠す必要ないですからね、少しくらいなら見せつけてやっていいんですよ、って言われて。嬉しかったなぁ。
これからはもう少し、二人でお外に行けたりするんだろうか。
―月―日
結婚報道の日だった。ずっと怖くてヒヤヒヤしてたけど、ナギさんが彼なら大丈夫ですよって、一緒に会見を見守ってくれた。
ネットでは賛否両論。でも結婚間近で用意してて、実際にもう結婚してます、っていうのがなんか、よかったらしい?
本当のファンならそのうち戻ってきますよ、って彼は笑ってた。芸能人ってやっぱりタフだなって思った。
―月―日
一緒に暮らし始めた。彼……ってもう書かなくていいのか、付き合ってるっていうか結婚してるの報道されたから……巳波さんはびっくりするほど物が少ない!だから私の物で部屋がいっぱいになっちゃったけど、そのままでいいですよって言われた。
結婚式してないから結婚の実感はなかったけど、巳波さんに一日「お嫁さん」だの「妻」だの「奥さん」だの呼ばれてるうちに、なんか……ああ、結婚したんだなぁって思った。
でもいつか……ウエディングドレス、着たいなぁ。
―月―日
家族親戚とお世話になっている関係者の方々をお招きして結婚式をした。
巳波さんは本当に綺麗で……惚れ惚れしちゃった。ウエディング雑誌の表紙の撮影みたいだなって思ってたのに、私に誓いの言葉言うし、私にキスするし、現実なんだなぁって思った。
お父さん、めちゃくちゃ泣いてて面白かったな。皆さんが用意してくれたプレゼントや余興もすごく嬉しかった。
今日、一生忘れられない日になりそう。
―月―日
幸せだなあ。
―月―日
ここを区切りに、日記の存在を忘れてしまったのか、書く必要がなくなったのかは知らないが、途切れている。たまたま見つけてしまっただけなのだが……読んでしまった。
また紡さんが日記を書こうとした時にびっくりさせてみたいので、ここには今日の私の日記を書いておく。彼女、どんな顔を見せてくれるだろうか。
ねえ、紡さん。私も今、幸せですよ。
一生離さない。
次に私か貴方のどちらかがこの日記を思い出し、中を開く時にも、私たちは一緒に幸せでいましょうね。
畳む 14日前(金 00:48:50) SS
―月―日
今日はアイドリッシュセブンの晴れ舞台!ライブの日の彼らは何度観ても、どこから見ても、むしろ見る度にどんどんすごくなる!私の自慢のアイドル。私の自慢の虹!
うーん、もっと演出勉強して、今日よりもみんなを輝かせたいな。
そういえば今日は皆さんを招待してたんだ。彼にも……今日の感想、聞いてみようかな。
―月―日
最近、ちょっと忙しい。空き時間に勉強してるからかも。スキマ時間以外はずっと仕事。
あ、そういえば……連絡、返したっけ?返してないかも……今からラビチャ返そう。怒ってない……よね?
―月―日
しばらく日記書くのも忘れてた。
疲れたなあ。
会いたいな。
―月―日
今日、久々に彼に会った!お仕事だったのに、帰りに家に寄ってくれた。
夕ご飯を一緒に食べた。今日の煮物はお口にあったみたい。彼の好物はメモしてるから、追加しておこうかな。
―月―日
あー。生理近づくと、こう……アレだね、アレ……むらっとするというか……。
日記だとなんでも書いちゃうな。
最近、彼とそういうことないな。私も彼も忙しくてそもそも会えてないしね。
一日中ずっとそういうことする日とか、欲しい……なんて、彼には内緒ね。
―月―日
体調が悪い。
経血が多い。
女ってめんどくさいなぁ……。
今日のお仕事は万理さんに代わってもらった。申し訳ないよお……。
―月―日
生理痛で寝込んでて、ふと起きたら彼がベッドにいた。びっくりした。痛み止めとお腹をあっためるものを持ってきてくれてた。
日記だから書いちゃうけど、見た目があんなにすごいかっこいいのにこんな風に気遣いも出来ちゃったり、ほんとに……私にはもったいないくらいの……でも自慢の彼!
気を使ってささっと帰ってくれた。でも……キスくらい、して欲しかったな、なーんて……。
―月―日
彼と喧嘩した。もちろん、私たちの関係性は……うん。日記にも書けない、けど。
確かに覚悟はしてた。でも、たまーに……。
街中で腕を組んでるカップルとかが、他の人の目も気にせずに「あれほし〜買ってよ〜」とか言ってるのとか……高校生カップルが手繋いで渋谷歩いてたり……カフェでデートしてる人達とか……。
あ、プレゼントが欲しいってことじゃない!違う、そうじゃなくって。
……仲直り、するべきだよね。
私が悪かったんだ。
―月―日
もう、私たち、ダメなのかなー……
……こんな仕事じゃ、恋愛なんかろくにできないか。
いや、でもまあ、彼がそもそも普通の人でもないから……。
……日記ですら色々と書けないのが、少し心苦しい。
―月―日
びっくりした。今日、家に帰ってきたらいつの間にか鞄にラッピングされたものが入ってて、慌てて開けたら手紙がついてた。彼からだった。
この前は私も言いすぎました。これからも私と一緒にいてくれませんか、だって。苦労はかけるかもしれませんが、貴方と一緒にいたい気持ちは同じなんです、信じられないかもしれないけれど……だって。
信じられないわけない!私だって、アイドルのマネージャーやってるから、アイドルの彼らをずっと見てるから。彼のやりたいこととか、夢とか、そういうもの、理解できないわけじゃないから。ただ、ちょっと……寂しくなっちゃった、だけだったから……。
あーあ。彼はこんなにも考えて考えて、向こうから行動も起こしてくれたのに、私といえば子供っぽいわがままばっかで困らせて……。
……プレゼント、嬉しいな。……ストールだ。……お仕事でしれっと、使っちゃっても……いいよね?
あー。誰かに自慢、したいよう……彼から貰った、って言いたいよう……。
お返し、何がいいかな。
―月―日
あの喧嘩のあとから、私に気を使ってくれてるんだと思うけど、空いてる時間に通話のお誘いが来るようになった。会うのは難しいけど、喋るのなら時間が作りやすいからって、そうやって考えてくれていたことが嬉しい。
ほんとは会いたい!もう、いまも会いたくて……ぎゅって……してほしい。……また長いこと会えてない。彼の匂いを忘れてしまいそうで、怖い。力いっぱい抱きしめてくれる時、力強くて痛いくらいなのも、忘れたくない……。
でも、声が聞けるだけでも……とっても嬉しい。さっきもちょっとだけ喋った。えへへ、いま、しあわせ。
―月―日
誕生日のお祝いをさせてくださいって言われた。覚えててくれたんだ……せっかく会っていたのに嬉しすぎて、私変な顔してなかったかな?
お店どこがいいですかって言われて、思いつくお店あげてみたけど少しだけ困った顔をされただけだった。まあ、そりゃ、やっぱ私たちじゃ、こう……年相応のカップルが行くようなミーハーなとこはダメだよね……。むしろ彼が広告になってるくらいだもんね……(これって、ギリセーフかな……日記にどこまで書いていいかいつも悩むなあ)
サプライズじゃなくてすみません、って言われたけど、むしろ楽しみができて仕事に張合いが出たって言ったら笑われちゃった。貴方は仕事ばっかり、だって。
よーし!楽しみもできたし、二週間休み無しフル活動だけど、アイドリッシュセブンのために頑張るぞ!
―月―日
体調が悪い。
疲れが溜まってるのかな。
気付いたら寝てて、彼からのラビチャ、不在ばっかり……ごめんなさい……。
―月―日
あと三日で休み。
あと三日で休み。
―月―日
ーーーー(ぐちゃぐちゃとした線がまばらに描かれているが、意図も文字も読めない)
―月―日
……もう、生きていたくない……。
みんなに、申し訳が立たない……。
週刊誌の表紙やインターネットを見るのが、怖い。
―月―日
部屋でぼーっとしてたら、いつの間にか彼がいた。お父さんが案内してきてくれたんだって言ってた。顔が合わせられなかったのに、涙止まんなくて、私が泣き止むまで抱きしめててくれた。
貴方のせいじゃありませんからねって何回も言われたけど、言われるたびに苦しくなった。
一番恐れていたことになった。
私は彼の人生を壊した……もう、何しても償いきれないよ……。
―月―日
彼、今日も来た。会いたくない、って言ってドア越しに追い返しちゃった。なんか……悲しそうだった気がする……ごめんなさい……。
会いたいよ。ぎゅってしてほしいよ。不安だよ。でも……。
……お別れ、しないと。そんでもって、広まってるスキャンダルは事実無根ってことでなんとかしないと……。
……私たち、付き合っていたことすら嘘にしなきゃいけないんだ。
彼と付き合うまでは、当然だって思ってた。有名人の熱愛発覚って、結構ショックだったし。でも、いまは……。
彼も、私も、ただひとりの人間としてお互いを好きになっただけなのに、どうしてこんなに知らない人達にやんや言われないといけないんだろう。
彼の精神が心配。でも私に出来るのは、謹慎くらい……。
―月―日
一ヶ月も引きこもってたから、現場復帰初日の今日、ガチガチに緊張しちゃった。
あっちこっちでひそひそ言われてるの聞こえてた。また彼に迷惑かけちゃったな。アイドリッシュセブンのみんなもなんかこう、腫れ物触るみたいだったし……申し訳ない……。
ずっとラビチャも無視してたから、今日彼のユニットメンバーづてに伝言を預かった。結局私の誕生日を祝えなかったから、祝わせて欲しい、いつなら空いているか、だって。こんな形で皆さんにバレるの、最悪だったな……。
……最後に。本当に最後に、会いたいって思っちゃってる自分がいる。これって……甘えても、いいのかな……。
お別れのプレゼント、用意しておこう。
―月―日
明日、彼との食事の日。
楽しみなのに、これが最後だと思うと苦しいな。変な汗ばっか出るし。色々思い出して、きついな〜……。
別れましょうって、ちゃんと言えるかな。練習していこう。
泣かないようにしなくちゃね。
―月―日
別れを切り出したら、なんか、結婚する話になってた。
……?
今日は、寝よう……久しぶりに彼と抱き合ったりしたし、頭が働いてないのかも……。今日の彼、なんか……優しかったな……。
―月―日
だんだん落ち着いてきたら冷静になってきた……けど、え!?ってなった。私、プロポーズされたってこと……?
彼に本気だったのか改めて通話で聞いてしまった。何馬鹿なこと言ってるんですかって一蹴されちゃったけど。
でも確かに、彼が言うように、結婚報道を間近に控えていました、バレちゃいましたけど、っていうのは鎮火にはいいのかも……?
……。
私、なんかうまく言いくるめられてたり、する?
―月―日
あれ、なんか……一緒に住む家の話とか決まってる……。
―月―日
引越しの日取りが決まってた。
彼が家に来て、判子あります?って聞かれたからここにありますよ〜って言ってたら、なんか婚姻届完成してた……んだよね。
明日出しに行きましょうね、って言われた。珍しく二人ともオフなので、そのままちょっとデートしましょう、だって。
うーん……?
―月―日
名字が変わった。
棗紡。
二文字になったなぁ、って思った。
デートでいっぱい手繋いでくれて、エスコートしてくれて、嬉しかったな。
もう隠す必要ないですからね、少しくらいなら見せつけてやっていいんですよ、って言われて。嬉しかったなぁ。
これからはもう少し、二人でお外に行けたりするんだろうか。
―月―日
結婚報道の日だった。ずっと怖くてヒヤヒヤしてたけど、ナギさんが彼なら大丈夫ですよって、一緒に会見を見守ってくれた。
ネットでは賛否両論。でも結婚間近で用意してて、実際にもう結婚してます、っていうのがなんか、よかったらしい?
本当のファンならそのうち戻ってきますよ、って彼は笑ってた。芸能人ってやっぱりタフだなって思った。
―月―日
一緒に暮らし始めた。彼……ってもう書かなくていいのか、付き合ってるっていうか結婚してるの報道されたから……巳波さんはびっくりするほど物が少ない!だから私の物で部屋がいっぱいになっちゃったけど、そのままでいいですよって言われた。
結婚式してないから結婚の実感はなかったけど、巳波さんに一日「お嫁さん」だの「妻」だの「奥さん」だの呼ばれてるうちに、なんか……ああ、結婚したんだなぁって思った。
でもいつか……ウエディングドレス、着たいなぁ。
―月―日
家族親戚とお世話になっている関係者の方々をお招きして結婚式をした。
巳波さんは本当に綺麗で……惚れ惚れしちゃった。ウエディング雑誌の表紙の撮影みたいだなって思ってたのに、私に誓いの言葉言うし、私にキスするし、現実なんだなぁって思った。
お父さん、めちゃくちゃ泣いてて面白かったな。皆さんが用意してくれたプレゼントや余興もすごく嬉しかった。
今日、一生忘れられない日になりそう。
―月―日
幸せだなあ。
―月―日
ここを区切りに、日記の存在を忘れてしまったのか、書く必要がなくなったのかは知らないが、途切れている。たまたま見つけてしまっただけなのだが……読んでしまった。
また紡さんが日記を書こうとした時にびっくりさせてみたいので、ここには今日の私の日記を書いておく。彼女、どんな顔を見せてくれるだろうか。
ねえ、紡さん。私も今、幸せですよ。
一生離さない。
次に私か貴方のどちらかがこの日記を思い出し、中を開く時にも、私たちは一緒に幸せでいましょうね。
畳む 14日前(金 00:48:50) SS
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みなつむSS 泣いてください
【ネタ部分呟き】
仕事で厄介Pに精神ボロボロにされて帰ってきて何も言わずに巳波の膝の上に座る紡を何も言わないでよしよしって撫でる巳波
ぽろぽろ泣く紡が落ち着くまでそのまま
きっともうずっとそういう流れなんやろなっていう
巳波の前で泣けるようになるまで紆余曲折は絶対にある
「泣いていいですよ」じゃなくて「泣いてください」って言われて初めて泣いたんじゃないか
「荷物もってもらってすみません、棗さん。助かりました」
「いえいえ」
ドサッとマネージャーが荷物を下ろした。事務所の奥まった部屋の扉を開けて、再度荷物を抱えた彼についていき、指定された場所に荷物を下ろした。ダンボールの中には山のような書類が詰まっている。一人で何箱も持っていこうとしていたマネージャーを見つけて、手伝いを申し出て、今に至るが、二人で三往復。この人は一人でやるつもりだったのだろうか、と半ば呆れながら、壁に背をつく彼を見やる。
「いやー、助かりましたよ、本当に。僕しか手が空いてなくて」
「……こういう雑用、宇津木さんがやるべきことだったんですか?」
「いやあ、誰かはやらないといけないので」
「この後は?」
「これの整理です」
はは、となんてことなさそうに笑う彼と、今まで運んできた数箱のダンボールを見比べた。自分は割と業界の人間の苦労を知ったつもりでいたけれど、それもまだまだ上辺のことだったのかもしれない。
ふとぼんやり、”彼女”のことを想った。
「……宇津木さん、若手の頃悩んだこととかありましたか」
「若手の頃ですか」
彼はもう私から目を離し、ダンボールの中身を長机の上に並べ始めている。書類、ファイル、必要なのか不要なのか私には判別のつかないようなくしゃくしゃの紙の束。慣れた手つきで処理していく彼はこちらに目をやることなく、言葉を返す。
「若手の頃は流石の僕もいっぱいいっぱいでしたけど。少しは話したかもしれませんが」
「靴下がちぐはぐだったお話ですとかなら」
「そうそう。だからたくさん悩みはしましたけどね。ほら、この業界って、理不尽の塊だから……納得のいかない叱責を受ける度に、心の中で舌を出したもんですよ」
「いまも十分そういう風に見受けられますけど……」
「はは、そうかもしれませんけど、今は昔よりは余裕あるつもりですね」
会話をしながら、もう一箱、中身を整理し終えてダンボールを畳む彼の姿には、妙な説得力がある。
「……小鳥遊さんはどうでしょうね、何が嫌で、何が悔しいのか」
一瞬、体が強ばった。マネージャーは相変わらずこちらを見ないまま、しかしおかしそうに笑いながら、手元の仕事をこなしていく。
「最近の棗さん、わかりやすくって助かります」
「……宇津木さんは相変わらず、ノンデリカシーですね」
「僕、抱かれたい男じゃなくて、察せない男なので」
嘘つき。声を出さずに口を動かすと、彼は少しだけこちらを見て、カラカラ笑った。
「小鳥遊さんのことは小鳥遊さんに聞いた方がいいですよ。聞いておきましょうか、何して欲しいか」
「……結構です」
自分で出来ますから。
強がった。そのまま失礼します、と一声かけて部屋を出る。しばらく歩く。スマホの電源をつけて、メッセージアプリを開いて、彼女のところを開いて、閉じて、また開いた。その繰り返し。
やっぱり、聞いてもらえばよかったかもしれない。最近なんだか疲れた顔をしている彼女を思い浮かべながら、そのままスマホをポケットに入れた。
最近、現場で彼女を見る度、どうやら元気がなさそうだ。初めは具合が悪いのだろうかと差し入れをしてみたり、疲れているのだろうかと思って労いの言葉をかけたりしてみたが、何も好転しているように見えない。寧ろ日増に、彼女は疲れていっている。
私は常に傍に居られない。彼女が受け持つアイドルの彼らにこっそり探りを入れてみたけれど、わからずじまいだ。彼らが支えてくれるのだと安心したかったのに、どうやら彼女は彼らの前ではいつも通り振る舞っているようで。察しが良い人たちも、あまり綻びを感じ取ってはいないようだった。――役者の自分より、彼女はずっと役者かもしれない。
それでも、自分のアイドルが目の前にいなくなると、彼女は顔を曇らせる。仕事中、休憩、束の間、ふと彼女がいた方を見やると、何やら不機嫌そうなプロデューサーに頭を下げている姿が目に入った。……業界ではほんの少し、悪い意味で有名な人だった。私も少しは知っている。
この業界、理不尽の塊だから。
マネージャーの言葉が頭を掠めていく。
悩んで悩んで、結局私が送ったのは『今夜、ご予定如何ですか?』なんていうちゃちなメッセージだった。送った私ですら、夕飯に誘ったのか、家に行きたいのか、どのような意図なのか、よくわかっていない。とりあえず、何か送らねばと思った結果、そんな曖昧な言葉になった。彼女はどう意図を汲んでくれるだろうか。彼女の判断に委ねてみようかな、なんて思いながら返事を待った。
返事が返ってきたのはもはや夜になってからだった。仕事を終えてしばらくしても彼女から既読すらつかず、メンバーには少し残って作業があると言って事務所の部屋を借りた。スマホでできる範囲の作曲作業をして、いい加減帰ろうか、なんて思った頃に来たのは、なんとも名状しがたいスタンプでの返事だった。怒りなのか、悲しみなのか、笑いなのかすらわからない、謎の生き物のスタンプ。どうしたものかと思いつつ、とりあえず返事をひとつ。
『まだ私、事務所にいますよ』
今度は瞬間で既読がつく。開いたままにしているのだろうか。もう一度、今度は別の生き物のスタンプが来てから、メッセージ欄は記入中の吹き出しになった。
『まだお仕事ですか?』
『いえ。貴方からお返事が来るかなと思って』
しばらくメッセージが途絶えた。ストレートに言いすぎただろうか。自分のせいで私が家に帰っていないことを気に病むだろうか。しかし。
『前回お会いしたの、三週間前なんですね』
カレンダーを確認していたのか、と理解する。付き合う時、スキャンダルを気にして、せめて三週に一度しか会えない、と言ったのは彼女のほうだ。そうですね、と相槌を打った。またわけのわからない生き物のスタンプが送られてきて、しばらく待つ。
『……明日、朝早いですか?』
指先で髪の毛を弄びながら、少しどぎまぎして、しばし返事が打てず、やがて『いいえ』と返す。続けて『泊まりに来ますか?』と、送ってみた。
メッセージが記入中になり、取りやめ、記入中になり、それを繰り返して数回。たっぷり約五分経ってから、彼女から今度は可愛らしいキャラクターの『おねがいします』と書いたスタンプが送られてきた。私は私のスタンプを送っておいた。
私はアイドル。彼女は別の事務所でアイドルのマネージャーをやっている。つまり私たちが恋愛関係にあるのは、ゴシップ誌がこぞって集る餌でしかない。本当は事務所に迎えに行って、二人で手を繋いで、いや肩を抱いて?……笑い合いながら、時には愚痴を言い合ったりして、気がついたら私の家に着いているような、そういった脚本の中のような恋愛に憧れない訳でもないが……現実では合鍵を渡しておくのが精一杯。私が帰り着く前に、彼女から『お邪魔します』とメッセージが届いていた。先に着いたようだった。
いつも誘うのは私からだ。それも、かなり無理やり誘わなければ、家になんて来てくれない。それなのに、今日は。ともすれば。
彼女、私に会いたいのか。高揚感はすぐに冷静さに変わっていく。最近の彼女を思い出す。しばらく時間が合わず、通話もろくに出来ていない。いつもなんだか疲れているようで、今日見た姿はプロデューサーに頭を下げている姿だけだ。すっと背筋を正してから、自分の家の扉を開けた。鍵は開いている。
「あ、おかえりなさい!ご飯、食べましたか?」
「……ただいま。まだです、貴方は」
「私、まだで……何か作らせてもらおうかなって……あ!キッチン、綺麗に使いますので!」
「いいんですよ、鍵を渡しているんだから、もっと自由に家を使ってもらって」
「そ、それはやっぱまだ気が引けるというか……」
あはは、と笑う彼女は……悲しくなるほど、元気そうだった。彼女のアイドルたちの前で笑い続ける彼女のまま、そのものだった。胸の奥がギリ、と軋んだ。私も……そんな彼女に、上手に笑い返してみせる。
「私が作りますよ。貴方はリビングに座っていて」
「えっ」
「料理がしたい気分なので。何が食べたいですか?和食か、洋食か」
「えっと……でも……」
「中華は材料がないので。和か洋か。どっちです?」
彼女はストレートに選択肢を用意して迫ると、必ず答えるところがある。それなら、和で……と答えながら素直にソファに座る彼女の姿を見つめながら、私は冷蔵庫から卵と肉を取り出した。
美味しかったですね、と彼女はまた、笑った。そうでしょう、と私もまた、笑った。変な間が起きるのを恐れて、何となくテレビをつけた。アイドルブームの現代、テレビに映っていたのは未だ無名のアイドルだった。その次に、私たちの映像が流れる。二人で並んでソファに座り、テレビの中の私を見つめる。客観的に見れば、おかしな光景かもしれない。
「……お風呂、入れますよ」
ふと声をかけてみると、彼女は一瞬遅れて反応した。
「え?ああ、えっと」
「自律神経を整えるには湯船に浸かるのがいいですからね。ごゆっくりどうぞ」
「いや、棗さ……、巳波さんのお宅ですのに、私が先に入るのは、申し訳なく」
急に慌て始めた彼女をじっと見つめる。こういうところ、妙にきっちりしているあたり、生真面目さが伺える。だから、だからこそ――心配なのだ。
「……それじゃ、一緒に入りますか?そしたら問題は解決しますよね」
「え!?」
「二人だと少し狭いですけど、まあ入れないことはない――」
「す、すみません、お風呂先に頂きます……」
「……ふふ、残念です」
入浴剤ありますから、と言って彼女に渡す。そのまま彼女は脱衣所へ入っていった。テレビはいつの間にか、もうアイドル特集を終えたようだった。一人になってしまうと、なんだかそんな気分でもなくなって、テレビの電源を切る。部屋が静寂に包まれて、彼女が湯船に浸かった音が聞こえた。
恋人と過ごす久しぶりの夜。泊まりがけ。風呂に入る彼女。その後には私が身を綺麗にして。……しかし。
言葉とは裏腹に”そんな”気分になれないのは、どうしてだろうか。
「電気消しますね」
スマホで操作して電灯を切った。そのまま布団に潜り込むと、先にすっぽり顔まで布団に潜っていた彼女が少し身を強ばらせたのを感じた。
「貴方の了承なく、何もしませんよ。安心して」
「わ、わ、わ……わかってます、けど。久しぶりにお会いして、その……こ、こんな近く、にいることが、ですね……」
「三週に一度しか会えないって言ったのは貴方で、今日泊まりに来ることにしたのも貴方ですよ」
「……お返しする言葉がありません……」
「……私に会えて嬉しくないんですか」
「う、嬉しい、ですよ……嬉しい……です!」
「……私も」
会いたかった。そう言って頬を撫でると、ほのかに彼女の頬が色付いた気がした。そのまま髪を梳く。指に絡まる髪に、指を絡ませて、頭を撫でた。恥ずかしそうにしながら……しかし、いつもよりも素直に私の手に擦り寄る彼女の体を、そっと引き寄せた。またかちこちと強ばった彼女の背中を、そっと撫でて、落ち着かせる。
「……あ、あの」
「はい」
「今日って……お泊まりするって……あの」
「はい」
「そういうこと、しますか」
少しずつ私の腕の中に引き込まれていく中で、彼女は少し不安そうにそう言った。複雑な気持ちのまま、どちらでも、と答えると、彼女は悲しそうな顔をする。……現場で見たような顔だ。傷つけた?半ば焦って、そっと擦り寄った。
「……貴方が嫌じゃなければ、私は、ぜひ」
「……」
彼女は答えないまま。私は言葉を失ったまま。
……やがて、二人とも黙ったまま、私は天井を見上げていた。彼女の体をそっと引き寄せたまま、優しく撫でているまま。
今日が終われば、また会えるのは三週後。しかし。言い換えるならば……別に、抱き合うのは三週後でも構わない。
今日はもっと、他になすべきことがあるのだろう。そしてそれはきっと、三週後では、もう遅い。
「疲れているでしょう」
「まあ、今日は現場移動も多かったですから」
「いえ。最近、ずっと。貴方は何かに疲れている」
「アイドリッシュセブンの人気のおかげですよ。嬉しい悲鳴です」
「そうですか」
「巳波さんこそ、疲れてませんか」
「言うほど疲れては無いですよ。仕事も楽しませて頂いてますし」
「そうですか」
間が空いた。そっと彼女の背中だけは変わらずさすっていた。そうすべきな気がしていた。凪いだ夜に、衣擦れの音だけが静かに響く。
時に思う。私たちは、素直ではない。私も、彼女も。彼女はまっすぐな人だと思っていたけれど、相手が私だから、ひねてしまったのだろうか。それならそれで、嬉しいような、困ったような、微妙な気持ちになるけれど。
彼女の方を盗み見た。天井をぼんやりと見つめている目は、少し眠たそうなものの、今すぐ眠る気配はない。私が彼女の背をさするうちに、彼女は私の服の腕のところを恐る恐る掴んだ。……遠慮がちに甘えている仕草だった。
ふー、と長く息を吐き出して、私は天井に向かって言った。
「私、泣こうと思います」
「え」
彼女ははっきりこちらを見た。何を言っているのか、そんな顔をしている。私は微笑んで、その頭を撫でた。
「今から泣きます」
「やっぱり何かお辛いことでもあったんですか!?ちゃんと宇津木さんに相談できてますか!?」
「いえ、別に。でも、悲しくなくても泣くと良いらしいですよ。ストレスが減るんですって」
「はあ……そ、そうは言っても急に泣いたりできるもんですか?」
「役者ですからね」
「はあ」
やがて、彼女はぼとぼと涙を落とし始めた私を見ておろおろしていた。別に何が悲しい訳でもない。そんな彼女を見て笑うと、より訳が分からないといった顔をしていて、可愛らしい。
「貴方も、泣けばいいですよ」
彼女はきょとんとした顔で、私の涙を袖口で拭った。
「いや、違いますね。泣いてください……でもなくて。貴方も泣いて。泣きなさい。私と一緒に泣くんですよ」
「何をおっしゃってるのか……」
「辛いから泣くのでも、弱いから泣くのでもありませんよ。恋人にせがまれたから、泣いてください。それだけです、ほら」
「……そんなこと、言われたって」
「泣き方がわからないなら、教えてさしあげますよ。役者はいつだって、笑いたい時に笑えるし、泣きたい時に泣けるんです。そうじゃないなら、役者なんてやめた方がいい。……貴方も、立派な”役者”をやるのなら、今、泣いて御覧」
黙った彼女の背をそのまま優しく撫で続けた。反対の手で、頬をなぞる。複雑な面持ちの彼女は、少し現場の雰囲気と似ている。
「私は……立場上、貴方の仕事の内容は聞けないし……私に言えない愚痴もあるんでしょう。でも、ほら。一緒に泣けますから。いつだって、貴方が泣きたい時に一緒に泣いてあげる。代わりにではなく、一緒に」
「……巳波、さん」
「世の中、一瞬で泣ける役者ばかりじゃないんですよ。せっかく仕事が出来る彼氏なんですから、利用すればいい」
さあ、ほら。そう言ってまた泣いてみせると、今度こそ彼女の目元にじんわりと雫が溜まっていく。
「そう、その調子。……筋がいいんじゃないですか」
さすが、棗巳波の彼女ですよ。そう言って、彼女を包むように抱きしめると、そのうち嗚咽が聞こえ始めて。震え始めた体を上から下へ、下から上へ、抱きしめたまま、撫で続けて。
「……良い子ですね」
そのうちに彼女は、声をあげて泣いた。私の背に手を回して、力いっぱい抱きついて。小さな体を震わせて。約束通り、私もそのまま泣いていた。
「貴方はあくまで泣きたいわけでもなんでもない、そうでしょう」
「……」
「私もそう。おそろいですね?」
「……。……はい……」
そうですね、と泣きながら笑った彼女をさらに抱きしめて、その夜、私たちはずっと泣いていた。ずっと――。
なんだか子供っぽかっただろうか。らしくなかっただろうか。もっと大人な手段で、もっと私の言葉や何かで、彼女を癒せたのではなかったのだろうか。しかし翌朝、私たちはお互いに泣きすぎて腫れた目を見て、二人で笑った。きっと、心から。
彼女が本当に笑うのを見たのは、実に三週ぶりのことだったかもしれない。
おかえり、と声を掛けたが返事はなかった。いつもよりやや乱暴に鞄を置き、ジャケットを脱いで壁にかけ、不機嫌を顕にしながら……私の膝の上に小さく収まった。お互いに何を言うでもない、私もそのまま彼女の体を包み、頭を撫で、その背に頭を預けた。
ぽた、ぽた、とたまに手に零れて落ちているのは彼女の涙だ。あえて拭うことはしない。そのまま、彼女が泣き終わるまで、私たちは何も言わないし、何もしない。何があったかも聞かない。ほんの少し体をさすって、抱きしめて、涙を流す手伝いをするだけだ。
あの日を皮切りにして、本当にごく稀に、彼女はこうやって涙を流す。――悲しいことがあったわけでも、辛いことがあった訳でもないのだ。私がそう頼んだから。そういう名目で、彼女は泣く。泣けるように、なってきている。少し泣けばまたすぐに落ち着く。運命が違っていれば、彼女は名女優のライバルだったのかもしれない。落ち着いた彼女は、言い訳がましく人差し指を立てながら言う。
「……巳波さん、私が泣くと嬉しそうにしますからね、だから泣いてるだけですよ、泣いてみせてあげてるだけです」
「あら、私のために泣いてくださってるんですね。嬉しいです」
「……そうでしょう?」
「ええ。これからも私のために泣いて、私のために笑って、私のために生きてください。ずっと貴方の全て、私のために生きて」
「それは……うーん……アイドルのマネージャーとしては難しいというか……」
「興醒めですよ。台詞だけでも言ってくれたらいいのに」
「私は役者さんじゃありませんから」
「ふふ……なら、まあ、せめて、泣くのだけは私のためにしてくださいよ。私、貴方の泣き顔が好きなので」
「趣味が良くないですよ」
「良いと思いますけどね、普段気丈な貴方の弱っている姿――」
「巳波さん!」
ふふ、と笑いながら、そのまま体をもっと引き寄せて、改めてしっかりと膝の上に彼女を乗せた。帰ってきた頃と対照的に、彼女はころころ表情を変える。そっと頬に口づけて、真っ赤になった彼女が身じろぎする前に、今度こそ唇を奪った。……ほんの少し、涙の味がする。
唇が離れるとそれはそれで名残惜しそうな顔をする彼女に、自覚はない。私は……彼女の表情のひとつひとつが愛しくて、仕方がない。仕方がなくて、そのまま抱きすくめて。
「そういえば、宇津木さんに最近言われましたよ。棗さん、あの時上手くやれたんですね、って。なんの事だかわかります?」
「……さあ、なんの事でしょう」
夕飯、出来てますよ、と声をかけると、彼女は顔を綻ばせる。じゃあ私が準備しますね、と言って聞かない彼女に台所を追い出される。二人で手を合わせて、食事を取って、風呂が湧いた。着替えを用意している彼女に、私は、ねえ、と声を掛けた。
「……今日って、そういうつもりでいいですか?それとも一晩中泣きますか?」
彼女は何も答えないまま、真っ赤な顔を小さく振りながら、脱衣所へ入っていった。ふふ、と私は小さく笑みを零した。
どうやら、明日は目を腫らさなくてすみそうだから。
畳む 75日前(土 18:22:31) SS
【ネタ部分呟き】
仕事で厄介Pに精神ボロボロにされて帰ってきて何も言わずに巳波の膝の上に座る紡を何も言わないでよしよしって撫でる巳波
ぽろぽろ泣く紡が落ち着くまでそのまま
きっともうずっとそういう流れなんやろなっていう
巳波の前で泣けるようになるまで紆余曲折は絶対にある
「泣いていいですよ」じゃなくて「泣いてください」って言われて初めて泣いたんじゃないか
「荷物もってもらってすみません、棗さん。助かりました」
「いえいえ」
ドサッとマネージャーが荷物を下ろした。事務所の奥まった部屋の扉を開けて、再度荷物を抱えた彼についていき、指定された場所に荷物を下ろした。ダンボールの中には山のような書類が詰まっている。一人で何箱も持っていこうとしていたマネージャーを見つけて、手伝いを申し出て、今に至るが、二人で三往復。この人は一人でやるつもりだったのだろうか、と半ば呆れながら、壁に背をつく彼を見やる。
「いやー、助かりましたよ、本当に。僕しか手が空いてなくて」
「……こういう雑用、宇津木さんがやるべきことだったんですか?」
「いやあ、誰かはやらないといけないので」
「この後は?」
「これの整理です」
はは、となんてことなさそうに笑う彼と、今まで運んできた数箱のダンボールを見比べた。自分は割と業界の人間の苦労を知ったつもりでいたけれど、それもまだまだ上辺のことだったのかもしれない。
ふとぼんやり、”彼女”のことを想った。
「……宇津木さん、若手の頃悩んだこととかありましたか」
「若手の頃ですか」
彼はもう私から目を離し、ダンボールの中身を長机の上に並べ始めている。書類、ファイル、必要なのか不要なのか私には判別のつかないようなくしゃくしゃの紙の束。慣れた手つきで処理していく彼はこちらに目をやることなく、言葉を返す。
「若手の頃は流石の僕もいっぱいいっぱいでしたけど。少しは話したかもしれませんが」
「靴下がちぐはぐだったお話ですとかなら」
「そうそう。だからたくさん悩みはしましたけどね。ほら、この業界って、理不尽の塊だから……納得のいかない叱責を受ける度に、心の中で舌を出したもんですよ」
「いまも十分そういう風に見受けられますけど……」
「はは、そうかもしれませんけど、今は昔よりは余裕あるつもりですね」
会話をしながら、もう一箱、中身を整理し終えてダンボールを畳む彼の姿には、妙な説得力がある。
「……小鳥遊さんはどうでしょうね、何が嫌で、何が悔しいのか」
一瞬、体が強ばった。マネージャーは相変わらずこちらを見ないまま、しかしおかしそうに笑いながら、手元の仕事をこなしていく。
「最近の棗さん、わかりやすくって助かります」
「……宇津木さんは相変わらず、ノンデリカシーですね」
「僕、抱かれたい男じゃなくて、察せない男なので」
嘘つき。声を出さずに口を動かすと、彼は少しだけこちらを見て、カラカラ笑った。
「小鳥遊さんのことは小鳥遊さんに聞いた方がいいですよ。聞いておきましょうか、何して欲しいか」
「……結構です」
自分で出来ますから。
強がった。そのまま失礼します、と一声かけて部屋を出る。しばらく歩く。スマホの電源をつけて、メッセージアプリを開いて、彼女のところを開いて、閉じて、また開いた。その繰り返し。
やっぱり、聞いてもらえばよかったかもしれない。最近なんだか疲れた顔をしている彼女を思い浮かべながら、そのままスマホをポケットに入れた。
最近、現場で彼女を見る度、どうやら元気がなさそうだ。初めは具合が悪いのだろうかと差し入れをしてみたり、疲れているのだろうかと思って労いの言葉をかけたりしてみたが、何も好転しているように見えない。寧ろ日増に、彼女は疲れていっている。
私は常に傍に居られない。彼女が受け持つアイドルの彼らにこっそり探りを入れてみたけれど、わからずじまいだ。彼らが支えてくれるのだと安心したかったのに、どうやら彼女は彼らの前ではいつも通り振る舞っているようで。察しが良い人たちも、あまり綻びを感じ取ってはいないようだった。――役者の自分より、彼女はずっと役者かもしれない。
それでも、自分のアイドルが目の前にいなくなると、彼女は顔を曇らせる。仕事中、休憩、束の間、ふと彼女がいた方を見やると、何やら不機嫌そうなプロデューサーに頭を下げている姿が目に入った。……業界ではほんの少し、悪い意味で有名な人だった。私も少しは知っている。
この業界、理不尽の塊だから。
マネージャーの言葉が頭を掠めていく。
悩んで悩んで、結局私が送ったのは『今夜、ご予定如何ですか?』なんていうちゃちなメッセージだった。送った私ですら、夕飯に誘ったのか、家に行きたいのか、どのような意図なのか、よくわかっていない。とりあえず、何か送らねばと思った結果、そんな曖昧な言葉になった。彼女はどう意図を汲んでくれるだろうか。彼女の判断に委ねてみようかな、なんて思いながら返事を待った。
返事が返ってきたのはもはや夜になってからだった。仕事を終えてしばらくしても彼女から既読すらつかず、メンバーには少し残って作業があると言って事務所の部屋を借りた。スマホでできる範囲の作曲作業をして、いい加減帰ろうか、なんて思った頃に来たのは、なんとも名状しがたいスタンプでの返事だった。怒りなのか、悲しみなのか、笑いなのかすらわからない、謎の生き物のスタンプ。どうしたものかと思いつつ、とりあえず返事をひとつ。
『まだ私、事務所にいますよ』
今度は瞬間で既読がつく。開いたままにしているのだろうか。もう一度、今度は別の生き物のスタンプが来てから、メッセージ欄は記入中の吹き出しになった。
『まだお仕事ですか?』
『いえ。貴方からお返事が来るかなと思って』
しばらくメッセージが途絶えた。ストレートに言いすぎただろうか。自分のせいで私が家に帰っていないことを気に病むだろうか。しかし。
『前回お会いしたの、三週間前なんですね』
カレンダーを確認していたのか、と理解する。付き合う時、スキャンダルを気にして、せめて三週に一度しか会えない、と言ったのは彼女のほうだ。そうですね、と相槌を打った。またわけのわからない生き物のスタンプが送られてきて、しばらく待つ。
『……明日、朝早いですか?』
指先で髪の毛を弄びながら、少しどぎまぎして、しばし返事が打てず、やがて『いいえ』と返す。続けて『泊まりに来ますか?』と、送ってみた。
メッセージが記入中になり、取りやめ、記入中になり、それを繰り返して数回。たっぷり約五分経ってから、彼女から今度は可愛らしいキャラクターの『おねがいします』と書いたスタンプが送られてきた。私は私のスタンプを送っておいた。
私はアイドル。彼女は別の事務所でアイドルのマネージャーをやっている。つまり私たちが恋愛関係にあるのは、ゴシップ誌がこぞって集る餌でしかない。本当は事務所に迎えに行って、二人で手を繋いで、いや肩を抱いて?……笑い合いながら、時には愚痴を言い合ったりして、気がついたら私の家に着いているような、そういった脚本の中のような恋愛に憧れない訳でもないが……現実では合鍵を渡しておくのが精一杯。私が帰り着く前に、彼女から『お邪魔します』とメッセージが届いていた。先に着いたようだった。
いつも誘うのは私からだ。それも、かなり無理やり誘わなければ、家になんて来てくれない。それなのに、今日は。ともすれば。
彼女、私に会いたいのか。高揚感はすぐに冷静さに変わっていく。最近の彼女を思い出す。しばらく時間が合わず、通話もろくに出来ていない。いつもなんだか疲れているようで、今日見た姿はプロデューサーに頭を下げている姿だけだ。すっと背筋を正してから、自分の家の扉を開けた。鍵は開いている。
「あ、おかえりなさい!ご飯、食べましたか?」
「……ただいま。まだです、貴方は」
「私、まだで……何か作らせてもらおうかなって……あ!キッチン、綺麗に使いますので!」
「いいんですよ、鍵を渡しているんだから、もっと自由に家を使ってもらって」
「そ、それはやっぱまだ気が引けるというか……」
あはは、と笑う彼女は……悲しくなるほど、元気そうだった。彼女のアイドルたちの前で笑い続ける彼女のまま、そのものだった。胸の奥がギリ、と軋んだ。私も……そんな彼女に、上手に笑い返してみせる。
「私が作りますよ。貴方はリビングに座っていて」
「えっ」
「料理がしたい気分なので。何が食べたいですか?和食か、洋食か」
「えっと……でも……」
「中華は材料がないので。和か洋か。どっちです?」
彼女はストレートに選択肢を用意して迫ると、必ず答えるところがある。それなら、和で……と答えながら素直にソファに座る彼女の姿を見つめながら、私は冷蔵庫から卵と肉を取り出した。
美味しかったですね、と彼女はまた、笑った。そうでしょう、と私もまた、笑った。変な間が起きるのを恐れて、何となくテレビをつけた。アイドルブームの現代、テレビに映っていたのは未だ無名のアイドルだった。その次に、私たちの映像が流れる。二人で並んでソファに座り、テレビの中の私を見つめる。客観的に見れば、おかしな光景かもしれない。
「……お風呂、入れますよ」
ふと声をかけてみると、彼女は一瞬遅れて反応した。
「え?ああ、えっと」
「自律神経を整えるには湯船に浸かるのがいいですからね。ごゆっくりどうぞ」
「いや、棗さ……、巳波さんのお宅ですのに、私が先に入るのは、申し訳なく」
急に慌て始めた彼女をじっと見つめる。こういうところ、妙にきっちりしているあたり、生真面目さが伺える。だから、だからこそ――心配なのだ。
「……それじゃ、一緒に入りますか?そしたら問題は解決しますよね」
「え!?」
「二人だと少し狭いですけど、まあ入れないことはない――」
「す、すみません、お風呂先に頂きます……」
「……ふふ、残念です」
入浴剤ありますから、と言って彼女に渡す。そのまま彼女は脱衣所へ入っていった。テレビはいつの間にか、もうアイドル特集を終えたようだった。一人になってしまうと、なんだかそんな気分でもなくなって、テレビの電源を切る。部屋が静寂に包まれて、彼女が湯船に浸かった音が聞こえた。
恋人と過ごす久しぶりの夜。泊まりがけ。風呂に入る彼女。その後には私が身を綺麗にして。……しかし。
言葉とは裏腹に”そんな”気分になれないのは、どうしてだろうか。
「電気消しますね」
スマホで操作して電灯を切った。そのまま布団に潜り込むと、先にすっぽり顔まで布団に潜っていた彼女が少し身を強ばらせたのを感じた。
「貴方の了承なく、何もしませんよ。安心して」
「わ、わ、わ……わかってます、けど。久しぶりにお会いして、その……こ、こんな近く、にいることが、ですね……」
「三週に一度しか会えないって言ったのは貴方で、今日泊まりに来ることにしたのも貴方ですよ」
「……お返しする言葉がありません……」
「……私に会えて嬉しくないんですか」
「う、嬉しい、ですよ……嬉しい……です!」
「……私も」
会いたかった。そう言って頬を撫でると、ほのかに彼女の頬が色付いた気がした。そのまま髪を梳く。指に絡まる髪に、指を絡ませて、頭を撫でた。恥ずかしそうにしながら……しかし、いつもよりも素直に私の手に擦り寄る彼女の体を、そっと引き寄せた。またかちこちと強ばった彼女の背中を、そっと撫でて、落ち着かせる。
「……あ、あの」
「はい」
「今日って……お泊まりするって……あの」
「はい」
「そういうこと、しますか」
少しずつ私の腕の中に引き込まれていく中で、彼女は少し不安そうにそう言った。複雑な気持ちのまま、どちらでも、と答えると、彼女は悲しそうな顔をする。……現場で見たような顔だ。傷つけた?半ば焦って、そっと擦り寄った。
「……貴方が嫌じゃなければ、私は、ぜひ」
「……」
彼女は答えないまま。私は言葉を失ったまま。
……やがて、二人とも黙ったまま、私は天井を見上げていた。彼女の体をそっと引き寄せたまま、優しく撫でているまま。
今日が終われば、また会えるのは三週後。しかし。言い換えるならば……別に、抱き合うのは三週後でも構わない。
今日はもっと、他になすべきことがあるのだろう。そしてそれはきっと、三週後では、もう遅い。
「疲れているでしょう」
「まあ、今日は現場移動も多かったですから」
「いえ。最近、ずっと。貴方は何かに疲れている」
「アイドリッシュセブンの人気のおかげですよ。嬉しい悲鳴です」
「そうですか」
「巳波さんこそ、疲れてませんか」
「言うほど疲れては無いですよ。仕事も楽しませて頂いてますし」
「そうですか」
間が空いた。そっと彼女の背中だけは変わらずさすっていた。そうすべきな気がしていた。凪いだ夜に、衣擦れの音だけが静かに響く。
時に思う。私たちは、素直ではない。私も、彼女も。彼女はまっすぐな人だと思っていたけれど、相手が私だから、ひねてしまったのだろうか。それならそれで、嬉しいような、困ったような、微妙な気持ちになるけれど。
彼女の方を盗み見た。天井をぼんやりと見つめている目は、少し眠たそうなものの、今すぐ眠る気配はない。私が彼女の背をさするうちに、彼女は私の服の腕のところを恐る恐る掴んだ。……遠慮がちに甘えている仕草だった。
ふー、と長く息を吐き出して、私は天井に向かって言った。
「私、泣こうと思います」
「え」
彼女ははっきりこちらを見た。何を言っているのか、そんな顔をしている。私は微笑んで、その頭を撫でた。
「今から泣きます」
「やっぱり何かお辛いことでもあったんですか!?ちゃんと宇津木さんに相談できてますか!?」
「いえ、別に。でも、悲しくなくても泣くと良いらしいですよ。ストレスが減るんですって」
「はあ……そ、そうは言っても急に泣いたりできるもんですか?」
「役者ですからね」
「はあ」
やがて、彼女はぼとぼと涙を落とし始めた私を見ておろおろしていた。別に何が悲しい訳でもない。そんな彼女を見て笑うと、より訳が分からないといった顔をしていて、可愛らしい。
「貴方も、泣けばいいですよ」
彼女はきょとんとした顔で、私の涙を袖口で拭った。
「いや、違いますね。泣いてください……でもなくて。貴方も泣いて。泣きなさい。私と一緒に泣くんですよ」
「何をおっしゃってるのか……」
「辛いから泣くのでも、弱いから泣くのでもありませんよ。恋人にせがまれたから、泣いてください。それだけです、ほら」
「……そんなこと、言われたって」
「泣き方がわからないなら、教えてさしあげますよ。役者はいつだって、笑いたい時に笑えるし、泣きたい時に泣けるんです。そうじゃないなら、役者なんてやめた方がいい。……貴方も、立派な”役者”をやるのなら、今、泣いて御覧」
黙った彼女の背をそのまま優しく撫で続けた。反対の手で、頬をなぞる。複雑な面持ちの彼女は、少し現場の雰囲気と似ている。
「私は……立場上、貴方の仕事の内容は聞けないし……私に言えない愚痴もあるんでしょう。でも、ほら。一緒に泣けますから。いつだって、貴方が泣きたい時に一緒に泣いてあげる。代わりにではなく、一緒に」
「……巳波、さん」
「世の中、一瞬で泣ける役者ばかりじゃないんですよ。せっかく仕事が出来る彼氏なんですから、利用すればいい」
さあ、ほら。そう言ってまた泣いてみせると、今度こそ彼女の目元にじんわりと雫が溜まっていく。
「そう、その調子。……筋がいいんじゃないですか」
さすが、棗巳波の彼女ですよ。そう言って、彼女を包むように抱きしめると、そのうち嗚咽が聞こえ始めて。震え始めた体を上から下へ、下から上へ、抱きしめたまま、撫で続けて。
「……良い子ですね」
そのうちに彼女は、声をあげて泣いた。私の背に手を回して、力いっぱい抱きついて。小さな体を震わせて。約束通り、私もそのまま泣いていた。
「貴方はあくまで泣きたいわけでもなんでもない、そうでしょう」
「……」
「私もそう。おそろいですね?」
「……。……はい……」
そうですね、と泣きながら笑った彼女をさらに抱きしめて、その夜、私たちはずっと泣いていた。ずっと――。
なんだか子供っぽかっただろうか。らしくなかっただろうか。もっと大人な手段で、もっと私の言葉や何かで、彼女を癒せたのではなかったのだろうか。しかし翌朝、私たちはお互いに泣きすぎて腫れた目を見て、二人で笑った。きっと、心から。
彼女が本当に笑うのを見たのは、実に三週ぶりのことだったかもしれない。
おかえり、と声を掛けたが返事はなかった。いつもよりやや乱暴に鞄を置き、ジャケットを脱いで壁にかけ、不機嫌を顕にしながら……私の膝の上に小さく収まった。お互いに何を言うでもない、私もそのまま彼女の体を包み、頭を撫で、その背に頭を預けた。
ぽた、ぽた、とたまに手に零れて落ちているのは彼女の涙だ。あえて拭うことはしない。そのまま、彼女が泣き終わるまで、私たちは何も言わないし、何もしない。何があったかも聞かない。ほんの少し体をさすって、抱きしめて、涙を流す手伝いをするだけだ。
あの日を皮切りにして、本当にごく稀に、彼女はこうやって涙を流す。――悲しいことがあったわけでも、辛いことがあった訳でもないのだ。私がそう頼んだから。そういう名目で、彼女は泣く。泣けるように、なってきている。少し泣けばまたすぐに落ち着く。運命が違っていれば、彼女は名女優のライバルだったのかもしれない。落ち着いた彼女は、言い訳がましく人差し指を立てながら言う。
「……巳波さん、私が泣くと嬉しそうにしますからね、だから泣いてるだけですよ、泣いてみせてあげてるだけです」
「あら、私のために泣いてくださってるんですね。嬉しいです」
「……そうでしょう?」
「ええ。これからも私のために泣いて、私のために笑って、私のために生きてください。ずっと貴方の全て、私のために生きて」
「それは……うーん……アイドルのマネージャーとしては難しいというか……」
「興醒めですよ。台詞だけでも言ってくれたらいいのに」
「私は役者さんじゃありませんから」
「ふふ……なら、まあ、せめて、泣くのだけは私のためにしてくださいよ。私、貴方の泣き顔が好きなので」
「趣味が良くないですよ」
「良いと思いますけどね、普段気丈な貴方の弱っている姿――」
「巳波さん!」
ふふ、と笑いながら、そのまま体をもっと引き寄せて、改めてしっかりと膝の上に彼女を乗せた。帰ってきた頃と対照的に、彼女はころころ表情を変える。そっと頬に口づけて、真っ赤になった彼女が身じろぎする前に、今度こそ唇を奪った。……ほんの少し、涙の味がする。
唇が離れるとそれはそれで名残惜しそうな顔をする彼女に、自覚はない。私は……彼女の表情のひとつひとつが愛しくて、仕方がない。仕方がなくて、そのまま抱きすくめて。
「そういえば、宇津木さんに最近言われましたよ。棗さん、あの時上手くやれたんですね、って。なんの事だかわかります?」
「……さあ、なんの事でしょう」
夕飯、出来てますよ、と声をかけると、彼女は顔を綻ばせる。じゃあ私が準備しますね、と言って聞かない彼女に台所を追い出される。二人で手を合わせて、食事を取って、風呂が湧いた。着替えを用意している彼女に、私は、ねえ、と声を掛けた。
「……今日って、そういうつもりでいいですか?それとも一晩中泣きますか?」
彼女は何も答えないまま、真っ赤な顔を小さく振りながら、脱衣所へ入っていった。ふふ、と私は小さく笑みを零した。
どうやら、明日は目を腫らさなくてすみそうだから。
畳む 75日前(土 18:22:31) SS
リュウ
>
うさ耳のレートたぶんアホだから交換じゃ見つからないだろうな〜て感じだけど
まあ そこまで死ぬ気で欲しい訳でもないしな
とりあえずは巳波のぽい前髪がほしい 106日前(木 00:34:20) 日常
まあ そこまで死ぬ気で欲しい訳でもないしな
とりあえずは巳波のぽい前髪がほしい 106日前(木 00:34:20) 日常
リュウ
>
手と足と首が長くて全体的に細くて厚みがなくて線が1本で塗りが全然凝ってなくて線が細いな……
っていう絵が好きなんだろうなって思うけど いざ描こうとなると別の絵を描いてしまうな…… 136日前(月 20:56:09) 日常
っていう絵が好きなんだろうなって思うけど いざ描こうとなると別の絵を描いてしまうな…… 136日前(月 20:56:09) 日常