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Switch2ガチで値段完全に割れてるじゃん 65000はもう失敗価格でしょ 27日前(日 09:54:45) 日常
(歌詞引用 ROMANCE/JanneDaArc)
「……無理、しなくていいんですよ、紡……」
うぷ、と小さくげっぷを逃がしながら、まだ飲みきれていないグラスの中身に、胃なのか肝臓なのかはたまた臓器ではない精神的な胸の奥か、居所のはっきりしない重みがかさなる。それらをないものとして笑っている今の私の笑顔は、はたして歪んでいないだろうか。しかし、目の前の私のエースは、歯牙にもかけていないご機嫌さだ。
「無理なんてしていませんよ。でも、私がある限り、巳波さんにはずっと一番輝いていて欲しいのです」
「輝いていますよ。ほら、グラスの中身に映る私、キラキラしてるでしょう」
「やだなあ、それはお店の照明でしょう?」
「……あはは」
勘弁してくれよ、と思いながら、無邪気さのあまり邪悪さの塊となっている姫から目を逸らした。なんとか飲み干せば終わりだ。ラストオーダーであることに気づかせぬよう、気分を害さぬようにとグラスを操っていたところ、我が優秀な姫君は少し笑みを緩めて……目つきだけ鋭く、店内を見渡して、言った。
「……そろそろ、ラストのお時間ですよね」
――勘弁してくれよ。もうたくさんです。結構です。少し休ませてください。酒焼けと連日のラストソングで、もう、喉が。
「……巳波さん、追加で、これ……お好きでしたよね?」
「……ありが、と、う、紡……」
私が言う前に注文を呼んだ紡と、どんな顔でいるのかわからない私を見比べて、同僚は憐れむような顔をしつつコールを煽り始める。ああ、これで今夜も私が一位だろう。
『それでは〜!愛しの姫より一言〜!』
マイクを向けられた私の姫は、もう慣れっこのくせに毎度初々しく、両手で受け取り、わざとらしく最初に言い淀む。
『え〜っとぉ……』
頼む。頼みますよ。もう、連勤で、キッツイんです、毎日貴方の相手をするのが。頼むから連勤終わりの今日くらい、平和に終わらせて。……そんな願いで笑顔が引きつっていたのかもしれない。私をちらりと見るなり、姫はにっこりと、完璧に微笑んで、控えめな声をスピーカーに載せる。
『明日も楽しみですね〜、よいちょ……』
マイクを手放し、そっとウインクをした私の姫は得意気で、もう何処までが天然でどこからが計算なのかもわからない。飲め飲めと言われるまま、気が狂うまで液体を喉に放り込み、その度に喉が熱く、胃が熱く、頭が痛くなっていく。
会いに来るつもりかぁ……ぼんやりとしながら、結局最後にマイクを持たされた。もう抵抗しない私に、姫は控えめに腕をからませながら、上目遣いに微笑む。
『……無邪気に笑う君を見てると〜……と〜きどき少し胸が苦しくてぇ……』
うっとりとした姫、反して盛り下がる店内、選曲は最悪だ。わかっている。けれど。
『これも愛のカタチでしょ〜……』
もうやる気のない私の歌声は、皆にどう聞こえているのだろうか。
『未来の〜ない……関係には……終わりは……なぁい、だって……』
――私たちって、いつ"始まった"のだろうか。
『始まってもないから。』
歌いながらちらりと隣の姫を見やる。
目が合った私の姫は、二重にぼやけて、相変わらず無邪気な笑顔で、百二十パーセント、笑っていた。
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