屋根裏呟き処

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No.7695, No.7694, No.7693, No.7692, No.7691, No.7690, No.76897件]

NO IMAGE リュウ みなつむSS 手違い

「本当にすみません、連絡に行き違いがあって、送っていただいて……」
「いえいえ、普段お世話になっているズールさんですから。ウチのみなさんを送るついででもありましたし」
    そう言ってほほ笑みかけると、助手席の棗さんもまた柔らかく微笑んで返してくれた。
    夜の大通りは少し混んでいた。ツクモの方で珍しく連絡やスケジュールの行き違いがあったと話していたズールの皆さんに、一緒に乗っていかないかと声をかけたのは私の方だ。予定がある方はそこまで送り届けて、アイドリッシュセブンのみなさんは寮へ送り届けて、最後に残ったのは図らずとも私と棗さんの二人だった。
    音楽はランダム再生にアイドリッシュセブンを流していたが、そうして明るい車内で私たちはあまり言葉を交わさないままでいた。なんとなく気になって棗さんを横目で見る度、その整った横顔がじっと窓の外を覗いているのが見えて、疲れているのかな、と思って閉口した。アイドルにとって移動時間は休息のひとつだ。送りを買ってでたのは私なのだし、役目だけを全うすることを考えよう。考え直して、指示器を出した時だった。
「小鳥遊さんは、このお仕事好きですか」
    曲がる前に、思わず棗さんを目視する。相変わらず、視線は窓の外を見つめているままだ。車の流れに乗りながら、私は確かに、はい、と答えた。
「大好きなお仕事です」
「具体的には、どういったところが」
「アイドリッシュセブンに限らず……アイドルの皆さんを、輝かせるお手伝いが出来ることですかね」
「でも、私たちが輝けばファンは私たちの功績として喜び、私たちがコケれば貴方たちが叩かれる。報われない仕事だとは、思いませんか」
「確かに、そういうこともあります……が」
「そういうことばかりでは?」
「……でも、それがいいんですよ」
「はあ」
    向かいの車がハイビームのまま近づいて、思わず一瞬くらりとしながら、気を引き締めて安全運転を心がける。棗さんにお願いされた場所まであと少し……と、そんな時だった。小鳥遊さん、と私を呼んだ棗さんは、今度は窓を向いていなかった。
「すみません、行先、変えてもよろしいですか」
「え?ああ、はい、構いませんが……何処へ?」
「……ゼロアリーナへ」
「……ゼロアリーナに?」
「やはり、わがままでしょうか」
「……いえ!思い立ったが吉日です、お送りします!」
「ありがとうございます……少し考えたいことがあって……。……そこからは、一人で帰れますから……」
    一度路肩に車を停め、私はカーナビのマップを設定し直しながら、彼に聞く。
「何か、ご用事が?」
「……なんとなく。……すみません、そんな理由で、他の事務所の方を巻き込んで。……やっぱり、私、一人で」
「……いいえ。今日は私がツクモに言って、ズールの皆さんをお預かりしているんです!責任もって、お付き合いしますよ、何処へでも……!」
「……何処へでも、か」
    アイドルのみなさんは、なにか悩むと、なにか思うと、ゼロアリーナへ向かうことが多いようだった。ゼロという伝説のアイドルが彼らの心を満たすのか、刺激するのか……そんな彼らを応援することが、それこそ私たちマネージャーの仕事で、喜びだ。棗さんも今日は疲れているようだし、なにかあったのかもしれない。
「……大丈夫ですからね、棗さん。私、今夜はちゃんとお傍に居ますから!」
    では向かいますね、と助手席に微笑むと、少し目を丸くした棗さんがこちらを見つめ、やがてようやく緊張が解けたように、あはは、と吹き出した。
「では……傍にいて下さい、今夜、ずっと」
「はい!任せてください!」
「……ふふ」
「……ちょっと元気になってくれましたか?」
「いえ、何も……ああ、小鳥遊さん、もう一つお願いしたいことが」
「何でも言ってください!帰るまで、私のことを宇津木さんだと思って!」
「……では、カーステレオ……ズールの……私が作った曲を、流していても構いませんか」
「……あ、すみません……配慮が足りなかったですね!すぐ切りかえ……」
「いえ、私がやります。ここからゼロアリーナまでだと、アルバム一本分は流せますから……スマホ繋ぎますね」
    やがて、静かな夜の道を走る車内に、ギラついた魅惑的な音楽が流れ出す。妙に隣から視線を感じて、ちらと棗さんを見遣れば、目が合って、今度こそにっこりと微笑まれる。
「ふふ、やっぱり私、ズールさんの曲……棗さんの作った曲、好きだなあ。……これ、棗さんのオススメですか?」
「ええ、全部……貴方に今宵、聞いて欲しい曲です」
「……私に?」
「……ええ」
    今日のゼロアリーナはどこの誰もライブをしていない。近づけば近づくほど、祭り事のときに賑やかな郊外は閑静になっていく。車内に響く音楽の鋭さが、その分だけいつもより増していく気がした。
「……ねえ、小鳥遊さん」
    ふと、隣から私を覗き込むように見つめながら、棗さんはほんのり、悪戯っ子のような甘え声で笑った。
「今夜は私の傍に居て、私の我儘に付き合って、私が作った曲だけを聞いていてくださいね」
「え?……はい!」
「……今夜は私が飽きるまで……私に付き添っていて下さいね?」
「任せてください……?」
「……ふふ」
    カーナビが残り推定距離を言ってから、棗さんは元通り、喋らなくなって窓の外を見つめていた。しかしその表情は、さっきよりどこか明るく見えた。よかった、と私もほっとしながら、疎らな街灯の下を走らせ続ける。……ちら、と、もう一度目をやってみても、端正な横顔はもうこちらを向かなかった。ハンドルを落ち着かず握り直しながら、そっとアクセルを踏み直す。
    真っ直ぐに海岸線を走る車内の無言は、いつしか気まずいものではなくなっていた。
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NO IMAGE リュウ この子超可愛い
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NO IMAGE リュウ ハンさんに沼ってて無理
NO IMAGE リュウ ホワイト様に愛されすぎて眠れない
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NO IMAGE リュウ 何回聞いても1日しか会長やってない桐生さんがここまで巻き込まれるの可哀想すぎる
NO IMAGE リュウ ルナアーラとソルガレオはこいつらを敬えよ
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NO IMAGE リュウ みなつむSS 逆さまのお月様

   久方ぶりに足を踏み入れた彼女の部屋に、見慣れないものがひとつ増えていて、お茶を淹れますと言ったその背を見送りつつ、そっと近づいた。インテリアの一種かと思ったが、確かにどこか使ったあとの印象がある、タロットカードの大アルカナが堂々と棚の上を占領していた。
「あ、それ……」
    決して安価では無かったであろうカードの趣向を手で触りながらその高級感あるざらつきに微笑んでいると、ティーカップをふたつ、紡さんが盆に乗せて運んできた。ローテーブルにふたつ並べ、壁に立てかけてあったクッションを同じように置いてから、私の隣に並んだ。
「タロットカードなんて持っていらっしゃったんですね」
「ええっと……巳波さんに、影響を受けまして……」
「私に?」
「巳波さん、よく色々と占って下さるじゃないですか。だから、私にも出来る占いやってみようかなって思って。そしたら……綺麗なカードにご縁があって」
「なるほど。タロットはやり方が分かれば出来るものですしね。楽しんでいますか」
「ええ、毎日、今日の運勢を一枚引くことにしています。……ですが……えへへ、まだまだ初心者なんでしょうが、占いで落ち込むこともあって」
「と、言いますと?」
    並んでいるカードのひとつを指しながら、なんとも言い難い微妙な笑顔で、紡さんは伺うように私を見やった。
「今日のカードは月の正位置、ってやつで。いくら調べても不穏なことしかなくて……実際、今日あんまよくない日だったし。なんだかこういうことが続くと嫌だなあ……なんて。占いへの道は、険しそうです」
「ああ……そういうことでしたか」
    少し悲しそうな顔をしながらそう言った彼女の眉間のシワを人差し指で伸ばしながら、くすくす笑う私に彼女は首を傾げた。私はそっと棚の上の月のタロットを手に取った。
「占いで難しいのは、占い自体よりもリーディングかもしれませんね。……ねえ、紡さん、私はご存知の通り占いの類が好きですが、占いとは悪いことを避けるため、身を守るため……つまるところ、人が幸せのために作った方法です。ですから、見通しの立たないカードの日も、一縷の見通しを立てるために読んでいいのです」
「で、でも……他にも、塔のカードの日にも、あまり調子が良くなくて、やっぱタロットって当たるんだなあって……!」
「フォアラー効果というやつですね」
「フォアラー……」
「貴方を占いました、と言って、曖昧だが誰にでも当てはまりそうな言葉で同じ診断を複数人に配ったところ、大方の人々が自分のことだ、と思ったという実験があったそうで。占いとは言ってしまえばそのように人に当てはまるように作られた統計ですから」
「……で、でも……」
    納得いかないのだろう、少しむくれた様子の紡さんは可愛らしい。スポンジのように全てを直ぐに飲み込む素直な一面と対になるように持ち合わせている、自分で実感しないと納得出来ないこの頑固な側面も、私が好ましいと感じているひとつだ。
    ならば、と私はそっと月のタロットを手に取り、彼女の目の前でくるりと向きを変えた。ぽかんとする彼女に微笑み、私は一言。
「今日の紡さんの一日はワンオラクルで大アルカナの月……の、逆位置かもしれません」
「……え?だ、だって、ちゃんとカードの向きは見ましたよ……?」
「けれど、初心者の貴方はうっかり引き方を間違えたり、シャッフルを間違えたのかもしれません」
「そんなあ、だって」
「絶対に言いきれますか?」
「そう、言われますと、自信が……」
「はい。それに……ふふ。今日は……こうして、会えたじゃないですか?」
    はっ、と弾かれたように紡さんが私を見上げる、その頬は少しずつ赤く染っていく。すみません、こんなことで、と反射的に口を動かず焦る彼女の頬にそっと片手を添えて、するり、撫で下ろすと分かりやすく身体が強ばって、そんな可愛らしさにまた、ふふ、と笑ってしまう。
「月の逆位置……月夜で見えづらいものに、ようやく触れられる事の暗示です。例えば、何か起こると敏感になり過ぎて悲観的になっていたり、過剰に占いを盲信して不安になっていたことへの終わり……そして……」
「……そして?」
    興味津々といった調子で、無意識だろう、少しずつ私に近づいてきていた彼女の耳にそっと口を近づけて、囁いた。
「……恋愛面においては……進展があることの、暗示、とも読めますよ。……さて?」
「ふぁ!?ふぉ、フォアラー効果、でしょう!?あ、お、お茶冷めちゃってるかも!」
「ふふ。これは占いをした上でのリーディングですよ。何がどう進展するのかは、お茶を飲んでからでも読みましょうか」
「け、結構です!」
    からかいすぎたかもしれない。耳まで色が染まりきった彼女は少し拗ねたように、改めて私をローテーブルに招いた。私はそっと、棚の上に逆さまの月を置いてから、彼女の向かいに座る。
    先輩として、明日からの彼女の占いが、彼女を幸せにするものとなるよう、悪戯のまじないをかけて。
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