No.7893
絡ませた指が汗でぬめり、しかしそれでもお互いに離れないように必死でつなぎとめていた。昂る体はただの気のせいではない。男女のまぐわいによる生理現象であり、愛する人と体を重ねることによる安らぎと熱の暴走であった。
否応なく荒くなった息と、度々抑えられず漏れ出て行く声。体の揺れに合わせ振動する心許ない土台はぎし、ぎしと音を立てていたが、呼応する水音に紛れていって、特に気にならないでいた。気になるのは、自分と彼女の快楽と気持ちだけである。
「ねえ、紡、お願い……私に、お願いをして」
「え、あ、お、お願い……?」
「そう、私に」
自分でも驚くほどの酷く甘い声で、彼女ごと柔らかな地面になだれ込んで、さらさらとした肌をなぞる。大きく吐いた息は熱く、今まさに達しきって私を痛いほどに抱き寄せている彼女はぶるりと身震いしていた。
「久しぶりでしょう、ストレスが溜まっていたんです」
「お仕事のですか?」
「貴方に触れられないことに。貴方をこの手に抱けなかったことに。ねえ、だから」
「……ふふ」
すっかりふらつき、力無く、体は限界を迎えんばかりといった様子の彼女は呆れたように笑いながら、私の背から頬へと優しく手を滑らせ、私の両頬を包み込むようにして、ふにゃりと口を動かした。
「必死な顔してますね」
「……必死ですから?」
「もう少し、限界まで、焦らしてみてもいいのかと思う時がありますが」
「それ、何度も限界を行ったり来たりしている貴方が言えたことですか」
「ふふ、余裕がない巳波さん、可愛らし――」
あっ、と、色気なく彼女は驚いたように喘いだ。少しばかり拗ねた私が一方的に腰を動かしたのだ。今度は拗ねるのは彼女の方だった。そしてそれを見て呆れ、笑うのが、私の方だ。
「ねえ、言って。求めて、紡」
そっぽを向いた彼女の耳を優しく食むと、少しずつ彼女はまた体を小刻みに震わせ、やがて、ふう、と吐いた息はこれまた熱い。抱擁を求めるように彼女は両腕を広げ、私は改めて飛び込むように呼応した。
「……巳波さん、下さい、貴方を……もっと」
「……うん」
お願いをして。私はいつも、そうやって彼女に"お願い"をした。唇と唇を、舌と舌を、改めて絡め直した足を――体の奥を、彼女の奥へ。そうして幾度も熱を携え、蓄え、高揚してちかちかと世界が歪み、弾けていく感覚と共に、欲と愛の間の子が顔を出す。
「――出して頂戴?」
すっかり甘え慣れた声も、仕草も、感じている表情も、全て私が教えた物だ。彼女強く、強く抱きとめながら果てた私の頭を、彼女は優しく、優しく撫でる。
「ねえ、大丈夫ですよ。私はいつだって、受け止めますから」
こくり、と小さな子供のように頷いた。どろどろとしたものが彼女の中へ流れ込んでいく感覚は、いつだってとても心地良い。一頻り堪能してから、また私はそっと彼女に頬ずりをした。もう眠たそうに微睡んでいた彼女は、少し驚いたような顔をして、今度はからからと笑う。
「いいですよ。もう少しお付き合いしても」
「……紡、そうじゃなくて」
「ああ。――巳波さん、ねえ……」
もう少し、頂戴?そう言った彼女の乾いた唇を容赦なく貪って、続戦の合図を響かせた。
畳む 24日前(水 20:30:50) SS
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