一回くらいキスしそう 物陰で 1年以上前(木 18:29:23) 二次語り
最後、彼は微笑んでいた。自分も笑っていた。これでお別れなのだと思いながら交わしたキスはやけに淡白で、それが余計に終わりなのだということを紡に実感させた。離れていく彼の熱は、いつもの何倍ものスピードで消えていった。
現場での自分たちは何ら変わらない。この時ばかりは他社で働いていることに感謝した。もし自社で毎日顔を合わせていたら、いつもの様に笑顔は繕えなかっただろう。付き合っていることすら周りの誰にもバレなかったのだから、別れたって何が変わるわけでもない。変わるのは自分たちの気持ちだけだ。
人は変わる。時間が合わなくなった。生活が合わなくなった。何より些細な価値観が合わなくなっていった。紡がいくら努力を重ねても塗り替えられなかった違和感を、彼は負担に思っていたのだと知った。彼もまた努力で塗り替えようとしていたことに、紡も負担を感じてしまっていた。だから……別れましょうか、そう言われた時、ほんの少しだけほっとした自分がいたのも事実なのだ。
部屋に残された私物は各々で片付けておくように決まった。たまにお互いふらっと家に泊まりにきていたから、下着や小物なんかが少しだけ残っていた。紡はそれらを拾い集めながらも、捨てられないままそっと箪笥にしまい込んでいた。今日こそはと思って引き出しを引いても、手が震えてまた押し戻す。その繰り返し。今日、お疲れ様ですと声をかけてくれた彼に、ちゃんと笑い返せていただろうか――。
帰宅後、買ってきたものを冷蔵庫に詰めながら、紡はふと手元にあるゼリーを見やった。スーパーによく売っている安くて容量の多いゼリーが、二つビニール袋に入っている。
二つ。
「……間違えちゃったな」
はは、と乾いた自分の笑い声が静寂に木霊して、ふと紡は部屋をゆっくり見回した。ソファにはクッションが二つ。テレビの前で、笑っていたいつかの自分たちが見えた気がした。くだらないことで笑い、くだらないことで喧嘩して、それでもその先に幸せがあると信じていた。終わりなんて、想像したこともなかった。あの時からずっと彼は悩んでいたのだろうか。何も考えずに彼に甘えていた自分に反して、彼は……。
「馬鹿みたい、私」
ぽろぽろと止まらない雫が頬をつたっていく。構わずに馬鹿みたい、馬鹿みたいだ、と繰り返した。
終わったことなのに。私はまだ、きちんと終われていないようだ。
◆
いくら唇を重ねても、いくら体を重ねても、埋まらない何かがずっと自分たちの邪魔をしていた。何度手を重ねても、心まで重なっていない違和感が、ずっと巳波を悩ませていた。
長く付き合っていくうち、お互いに忙しさは増していった。手柄を立ててキャリアを積んでいく彼女と、アイドルとして大成していく自分。成長は楽しかった。忙しさすら心地よいと思っていた。彼女の成功も、自分の事のように嬉しかった。ただ、少しずつ、自分たちの関係には疑問を抱き始めていた。
仕事と自分、どっちが大切?なんて、厄介な恋人同士の揉め事の常套句に過ぎないと思っていたのに、自分がそう思う日が来るとは思わなかった。巳波が二人で一緒に過ごしたかった日を、彼女は自分の担当アイドルと過ごした。ごめんなさい、と後日訪ねてきた彼女を抱きしめても、寂しさが埋まらなくなって行った。……焦った。
自分が彼女を嫌いになってしまうのが、怖くなった。だから。別れましょうか、重くなりすぎず、軽くなりすぎないように、二人で並んで座っている時に、そう言って微笑んだ。何処を見ればいいのかわからなかったから、宙の一点を見据えて。横目で見た彼女の顔が強ばっているのに気づいて、慌てて目を逸らした。言葉は何も続けられなかった。やがて、わかりました、と言った彼女は微笑んでいた。いつものように――。
別れを切り出したくせに、出ていく彼女を抱きしめたのは自分だった。愚かしい、馬鹿みたいだ。そう思いながら困惑気味の彼女の唇を奪った。それ以上はもう駄目だ。そっと触れて、離れた彼女の熱が、いつまでも……今でも、唇から離れていかない。
現場での彼女と自分は普通のままだ。誰に付き合っていることを話してもいなかった。だから、変わったのは自分たちの気持ちだけ。外観は何も変わらない。秘め事はそのままに。しかし、どうしても彼女の揺れる後ろ髪を目で追いかけて、やめる。その繰り返しだ。彼女はもう吹っ切ってしまったのだろう、巳波のような名残を惜しむ様子は微塵も見受けられなかった。
「女性は、強いな……」
彼女の私物は別れた日にすべて捨てた。名残惜しい、離れ難い、そう思う前にすべて消し去ってしまいたかった。それなのに。部屋のどこに居ても、なぜだか彼女の匂いがする、気がする。彼女の気配がする、気がする。冷蔵庫の中身を取り出しながら、夕飯何に……と声を掛けようとして、誰もいないワンルームの居間を見つめて、はっとする。
これじゃ、振られたみたいじゃないか。振ったのは自分の癖に?
「馬鹿みたい、私」
ぽたり、床に落ちた雫を見て、慌てて巳波は袖で涙を拭う。なんだか妙に可笑しくなって、馬鹿みたい、馬鹿みたいだと呟いた。
終わらせたはずなのに。私はいつまでも、終わりに出来ないままでいる。
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1年以上前(木 17:48:50)
SS
ざら、ざらり、舌が擦れる度に頭のどこかが痺れていく。ざら。思考が曇っていく。ざらり、もっと、もっと、舌先ではなくて、その先へ。もっと、根元の方へ……欲しくなる。求めて自ら絡めていけば、そんな自分を楽しんでいるのだろうか、相手はそっと逃げて、唇を合わせて、またその間から割り込んでくる。息をするのも忘れるほど夢中になって、呼吸が苦しくて、しかして今度は離れてくれない。後頭部と顎を掴まれたまま、今度はされるがままにするしかない――。
ようやく解放された瞬間に、紡は息を吸った。はあ、はあと肩で息をする紡と同じように、巳波も熱を持った息を吐きながら、しかしその瞳はぎらりと光を称えたままだ。先程まで紡のそれと絡めていた舌でそっと唇を舐めずって、口の端を歪める巳波の仕草に、紡は背筋に妙な熱を感じ、体が熱くなっていく。
「ねえ……」
今日は。それだけ言って、答えを待つ巳波の人差し指が、紡の首から顎を伝って輪郭をなぞった。もう反射を抑えられなくなっている体を震わせながら、紡は……小さく頷く。
満足げに微笑んだ巳波の手に引かれ、紡はすっぽりとその腕の中に包まれていく。ざら、ざらり。今度は自分の首筋を伝うその感覚、熱。堪えきれなくなった紡のしずれた声が、二人を夜へと誘っていく。
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1年以上前(水 19:42:30)
SS
を明日描きたい それを見てにこにこしてる巳波も描きたい 1年以上前(水 01:23:14) 日常
自分でよしあしがわからない、客観的視点を持てないのってもしかしてあまりクリエイターに向いていないかも
っていうか、あらゆることに対して成長しない人間だよね……
客観的分析 していかねば 1年以上前(火 21:45:56) 日常









