全年全月10日の投稿[275件]

放課後しか稼働しないはずの生徒会室からは、よく朝も昼も元気な物音が聞こえてくる。誰も注意なんかしない。だって、そこにいるのは生徒よりも、果ては教師たちよりもこの学校で権威のある……生徒会長その人だからだ。
この学校に校則はない。この学校において、決まりはない。教師は教師以上の意味を持たず、生徒たちに自立を促す。――そんな考えはもはや、現代ではただモラルのない悪知恵の働く生徒を生み出すのみになっていた。
がらり、躊躇無くその扉が開いた瞬間だけ、誰もが扉へ目をやり、今まで楽しそうに、または気持ちよさそうに声を上げていた女生徒たちも、その真ん中に佇む見目麗しい男子生徒も、一瞬動きを止めた。音も声も揺れもとまり、全員の視線の先は何も気にせず部屋へ入ってきた一人の女生徒、小鳥遊紡に向けられた。
「……すみません、忘れ物していたので。……もう出ますね、お邪魔しました」
乱交騒ぎの数人には目もくれず、女生徒はそう言うと机の上から何枚かプリントを取り、雑に筆記用具を掴んで踵を返した。そこで行われている行為に、一切の興味が無いのだろう。彼女が生徒会室の境界を跨ぐその時、柔らかな声で男子生徒、会長の棗巳波が彼女に言った。
「ねえ、小鳥遊さんも、私と遊んでいきません?」
「……結構です。もう、人は足りているでしょう」
周りに三名、みだらに服装を乱した女生徒を侍らせていた男子生徒にしっかりと軽蔑の視線を注ぎ、出ていく彼女を彼は、興味深そうに見つめていた。
――会長の趣味、信じらんないよ。
生徒会室とまったく反対の校舎の端に階段はあった。それまで堂々と、かつかつ廊下を歩いていた女生徒は、階段が来るなり数段降り、しゃがみ込んで、頭を抱えた。
(生徒会室でえっちなことするのもよくわかんないし……一度に色んな人とやってるのもよくわかんないし!……それに……)
ぞわ、ざわ、背筋に冷たいものと、甘い刺激が同時に走り、座り込んだ足をもじもじと、膝をくっつけては離した。自分の中に生まれたその感情のうち、恐怖で無い方が何であるのか、彼女はまだ知らない。知るには、経験が無さすぎた。だが、あの夜……会長である彼に誘われるまま、拘束されるまま、無理やり犯された記憶が呼び起こされる。
彼女は無意識に、あの日、その後鈍痛だけが残った下腹部に手をやり、大きく息を吐いた。その記憶の全てを、忘れてしまうようにと。
(……会長の趣味に口出すことはしない……きっと、それでいいんだよね。でも……私は……)
加担したくない。あの中に入っていたくない。もう二度と、会長とあんな――。
先程の女生徒たちを思い返した。制服は乱れ、紡からは見たくないような……体同士の関係部位は露わになっており……。
『ねえ、小鳥遊さんも』
そこまでリフレインして、ふるふる、と首を振って振り切った。大きく深呼吸をして、立ち上がり、ふらふらと教室へ戻っていく。
(私は……私は、せっかくいい学校で奨学生になれたんだから……)
一人で自分を育ててくれている父を思った。紡は頷き、顔を上げる。元通り、毅然とした女生徒として――この学校の、副会長として相応しい態度で。
畳む


