屋根裏呟き処

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NO IMAGE リュウ RED double アダハル(うちよそ)
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NO IMAGE リュウ 没SS 夕月如月卯月
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NO IMAGE リュウ .
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NO IMAGE リュウ RED アダハルSS double

 お化け屋敷だぁ、とハルは思った。古びた廃れた館。蜘蛛の巣だらけ、ガラスは割れ、まあ一言で言えば、人間は住んでないだろうなぁ。
 隣を見ると、ヨシミは青い顔。アレ?お化け屋敷とか苦手だったっけ?って聞いてみたら「小動物がいるじゃないですか!」って、まあ、そうかも。こうもりとかいそうだし。でもハル、こうもり見たことないから見てみたいなあ。
「ハルさん、今回のトランスは催眠と思念のトランスらしいっすよ。ライバルですね」
 ライバル、ねえ。特に興味も湧かない。ただ今回こそは、ちゃんと寝ないで任務をこなしたい。
 そう、ハルはいつも気がついたら本部の中、ベッドに寝かされている。みんな「マリが催眠で」「別人みたいで」なんてゆーけど、記憶なんて一切ないし、ハルはどこでも寝てしまう。きっと任務もいつも寝てしまってるんだ。相方のヨシミが優秀だから、自分は首切られてないんだろうな、といつも思っている。
 行きますよ、と先陣切るヨシミについて、ハルも館へ入った。

 ぐらり、と頭が突然揺れた。大地震でも来たのかと思った。地震が来たら隠れなければ、でもどこに?周りを見渡すが、暗くてよく見えない。……その上、地震は一瞬で終わった。
「ねえヨシミ、いま地震あったね」
 いるはずの相方に声をかけたが、返答がない。段々と闇夜に慣れてきた目でも、ヨシミの姿は見えなかった。……保護官をひとりにするのは危険だ。そう思ってあちこち部屋を探したが、ヨシミの姿はついに見えなかった。
「ヨシミ〜、こうもりいないから出てきてよ。離れるのはヤバいってばぁ」
 割と大きな声で呼んでも反応ひとつない。困った。とりあえず、自分一人でも捜査できるところはしておこう。目覚ましに、自分に電流を走らせた。……一人なのに寝てしまってはまずい。全身を駆け巡った電流に、いてっ、と目が覚めた。ヨシミがいない間、寝てはいけないチャレンジしなきゃいけないのか。……ユーチューバーにでもなろうかな、とふざけながら色んな部屋を見ていく。
 どこも薄暗く、奥へ行くほど埃っぽい。だが、噂を聞いて色んな人が訪れたのか、足跡はたくさんついている。……不自然に途中でなくなっている足跡もある。
 トランス、催眠とサイコメトリーだっけ。ってことは、もうハルの思惑にも気づかれてるのか。ならしっぽを出さないのも仕方ない。本体さえ見つけられれば、とりあえず痺れさせて捕まえられるんだけど……。
 と、足元に何かがぶつかった。思わず癖で「ごめん」と声が出た。視線よりも下になにかがいる。物?いや、動いている。……小さい子供だ、と判断して、「ごめんね、立てる?」と手を差し出した。が、子供は下を向いたままだ。
「……立てない」
「どこか怪我した?ハル、絆創膏くらいしかもってないんだけど、擦りむいたならこれ使う?」
「……いらない」
「うーん。機嫌損ねた?ごめんね、仕事できてるから集中してたの。許してくれる?」
「……許さない」
「うーん、そっかあ。でもこんなところにいるのは危ないから、一回一緒にお外出よっか……」
「許さないよ、俺は」
「え」
 おかしいな。なんだか聞き覚えのある声だった。子供の可愛らしい声ではなくて。それはまるで……。
 ハルの声の、ような。
 いや、慌てなくていい。今日だって、ちゃんとヨシミから情報をもらってきた。確か、トランスは……。
 ……?
 トランスってなんだ?
 ヨシミってなんだ?
 ……あれ、何かおかしい。
 何も思い出せない……??
 ……自分は、誰だ?
「ナナシ」
 びく、と体が反応した。呼ばれた、と反射的に思ったのだ。子供が立ち上がった。その紫色に光る両目は、まっすぐこちらを見据えている。睨むように。
「俺は許さない、俺をナナシと呼んだ人間を。名前を付けなかった人間を。……そうだろう、ナナシ」
「……俺はナナシっていうの?」
「そう呼ばれてたんだよ。忘れたの」
「……覚えてる、気が、する」
 なんだろう、息が苦しい。頭が熱くなっている。反射的に腕が動くが、その腕が何をしてくれるのかわからなくて止まる。
「俺は捨てられた。その先の教会で名前を貰えなかった。奇病だから、気持ち悪いから、だからナナシだっただろ」
 ぱ、と目の前が変わる。たくさんの幼い子供たちとシスター。教会だ。ああ、覚えている。牧師様のお言葉を静かに聞く。賛美歌を歌う。そして一人ずつ、今週できたことをシスターに報告し、褒められて、祈りの間を出ていくのだ。
 気がつけば俺は並んでいた。今週は何を頑張ったんだっけ。そうだ、今週は……いつも眠くなるけれど、一日だけ寝ないでお話を聞いたのだ。誇りだった。
「さあナナシ、あなたが今週頑張ったことはなんですか」
「はいシスター、俺は一日、寝ないで牧師様のお話を聞きました」
 よくできましたね、とみんなと同じように言われると思っていた。だが、シスターは大きくため息をついただけだった。
「ナナシ、よりもヤクナシ、のほうがよかったかしら。神の慈悲がなければ、貴方なんてとっくに捨てられているのに」
 行ってよろしい、と言われて歩く。褒められなどしなかった。ショックではなかったが、どうして褒められなかったのか、ほんの少し悲しくなった。
 教会を出ると、元通り薄暗い館にいた。だが、先程とは様子が違う。あらゆる場所に鏡がある。落ちている手鏡、立てかけられた姿見、様々な鏡に見られている気分になって、少し吐きそうになってきた。
「なあナナシ、眠たくないか」
 姿見から声がした。映っているのは自分の姿だし、声も自分のものだ。思わず、小さく「あー」と声を出して確認したが、やっぱり自分の声だ。
「……眠たいよな、眠たいんだよな、いつも。大事な時に眠たい、大事な時に役立たずだ」
 落ちた手鏡から声が飛んできた。……言われてみると、だんだん眠たくなってきていることが分かる。
「どうせ治らない病気でしょ。じゃあもう……ずーっと眠るってのはどう?」
 壁にかけられた、一際大きな鏡が言った。見れば、俺が微笑んでいる。
「お前は捨てられて、教会でもお荷物で、だから追い出されたんだよ、能力なんて気味悪いしね」
「いつも寝てばっかりで仕事は相棒任せ、役に立ってるの?」
「お前はいまでもナナシのヤクナシだよ、ねえ」
「一緒に寝ない?眠たくなってきたよ。ここで眠れば、きっと幸せな夢が見れるよ」
 視界が変わる。一面の白い花畑。確かに。
 ここで寝たい……。
「そうだよナナシ」
「おやすみナナシ」
「そう……永遠におやすみ、ナナシ」
 俺の声がする。そうだね、ここで寝るのはとても魅力的だね。
 ごろん、と花畑に横になった。天井の鏡の中の自分は微笑んでいる。一緒に寝よう、と囁いてくる。……俺はうん、と頷いた。
「……そうだね、一緒に寝よう、ナナシ。……ハルと一緒にね」
「!?」
 鏡の中の自分が目を見開いた。
 目が合った。……「これ」がトランスか。
「覚えてるよ、ナナシって呼ばれていたこと。ヤクナシって言われたこと。でもね、REDで名前、貰ったんだ。だから……キミにもあげるよ、同じ名前。……マリハルトキ。だから、ハル、一緒に寝よう、おいで」
 ふ、と場面が変わる。ハルの目の前には、息荒く床に手を着く青年型の、バケモノ。ケモノのような毛を逆立てて、爪をむき、こちらを見つめている目は「信じられない」とでも言いたげだ。
「なんでだ!トラウマじゃないのか、お前は!なんで、どうして、催眠にかかっていたのに」
「だって、ハルはもうハルだもん。あんなの忘れた。それに」
 にや、と自分の口角があがるのがわかった。……ああ、眠たいなぁ。意識が遠くなっていく。
 
「催眠をかけている時は、催眠をかけられているのだ、ってな……さあ」
【おやすみ、俺の愛しい子】

「……さん、ハルさん」
 呼び声に、ハッ、と目を覚ます。薄暗い空。夜だ。ぼんやりとした視界。誰か。安心する声。相棒。
「……ヨシミ、おはよ。ハル、もしかしてまた寝ちゃってた?」
「……どこまで覚えてます?」
「ヨシミがこうもり怖がってたとこ」
「……じゃあもう、それでいいっす。帰りましょう」
「え。もうおわったの?ヨシミすごくない?」
「……。……まあ、他の隊も来てますからねえ」
 煮え切らない返事をするヨシミに首をかしげながら、ハルはその後を着いていく。
「……ヨシミ」
 呼ぶと、くるりと振り返る相棒の姿。
「なんっすか?ハルさん」
 名前を呼ばれる。……うん、よくわかんないけど、満足した。
「あーあ。報告書書くの、やだなあ」
「俺が八割やるんですけどね!?」
「ねむた〜い」
「あんなに寝てたのに!」
 相棒と帰路に着く。
 結局今回も何もしなかったなあ、と思いながらも、誰かがトランスを確保したならそれでいいか、と思う。
 ……だけど、なんだか今日は酷く疲れていて。
「……ヨシミ、ごめん」
「ハルさん?」
「おやすみ……」
「ハルさーん!」
 名前を呼ぶ心地よい声に、ハルは眠りに落ちていった。畳む
NO IMAGE リュウ ミクミヅ 出産前

「なあに、それ」
「手袋だよ」
 ぱちぱちと音を立て、赤く光を放ち続ける暖炉の隣で、棒を両手に、くるくると毛糸を回し、形を作っていく僕の指先を、彼女は吸い込まれるように見ていた。僕は危ないよと声をかける。集中している時の彼女は、気づいているのだろうか、眉間の皺が濃くなるが、それもまた愛しくて、思わず口が緩んでしまう。そんな僕を見て、彼女はそのままの顔で、やや首をかしげた。……その間も、手は彼女の少し膨らんだ腹部を撫でている。
 その姿に、ああ、たしかに母親だ、と思う。彼女の胎内には、いるのだ、一人の命が。
「もうすぐ冬だからね。生まれてくる子が、寒くないように」
 僕がそう言うと合点が言ったのか、彼女の表情がぱっと明るくなる。逆ハの字の眉がなだらかになる。すぐにころっと変わった柔らかな表情で、僕を見上げて、えへへ、と笑う。
 ああ、なんて幸せなんだろう。
「……女の子かなあ、男の子かなあ」
「トキはまだわからないって言ってたね」
「うーん、でも、たぶん、女の子だよ」
「そっか。お母さんだもんね」
「うん!そう!あたし、お母さんになるの!」
 うん、と頷くと、キラキラとした笑顔で彼女が少し僕に近づいた。編み物の手を止めると、僕はそれを足元のカゴに戻して、そのまま彼女を膝にのせた。彼女の背を支え、僕も彼女の腹部に載せられた手の上に、手を添える。そうしてお互い見つめ合うと、自然と笑顔になる。
「……もうすぐだね」
「……うん」
「体調は大丈夫?」
「問題ないよ!トキも言ってた」
「そっか、じゃあ安心だね」
 もちろん安心できないことはわかっている。彼女はいま、命懸けで命を背負っている。出産にも、何が命取りになるかわからない。毎日がサバイバルのようなものかもしれない。僕はそれを肩代わりすることも、一緒に持つことも出来ず、ただ歯がゆい思いをするだけだ。
 けれど、そんな彼女の一番そばにいることなら、きっとできる。そう思って、僕は今日も彼女の手を握る。
 彼女は顔を赤くしながら、あっちをみたりこっちをみたりして、ゆっくりと僕を見上げる。僕が笑うと、彼女もまた、控えめに笑った。
「……そろそろ寝よっか」
「うん」
 僕は彼女を姫抱きにしたまま、寝室へと向かう。歩くのも体力を使うから、歩ける時と歩けない時があった。身体に限界がきてる彼女が子を授かり、出産など、誰から見ても大変危険なことだった。それでも。
「えへへ、あたし、お母さんになっちゃうのね」
 そう言って楽しそうに笑う彼女が、ずっと家族が欲しいといっていた彼女が、頑張るのなら、僕はただ手を握り、後押ししてあげたいのだ。
 ベッドに寝かせて、電気を消し、彼女のおでこに口付けをする。寝るまでいてよ、と彼女は僕の服の裾を引っ張った。僕はベッドのふちに腰掛け、彼女の頭を撫でる。
「ねえ?」
「なあに」
「あのね、あたしにも作って、手袋。赤いのがいいな」
「わかった、任せて」
「でね、でね、ミクも作ってね」
「うん」
「赤ちゃんとね、三人でね」
 おそろいがいいなぁ。そう言いながら眠りに落ちていった彼女の頬に口付けをして、毛布をもう一枚かけてやり、それからまた暖炉のそばへ戻ると、編み物の続きを始めた。
 家族3人でお揃いの手袋。世界に一つしかない僕達の手袋を編むのだ。畳む
NO IMAGE リュウ 八原兄妹SS ふくれっつら

やっぱりな、と苦笑いをした。玄関扉を開けてすぐ飛び込んできたのは、腕を組んで仁王立ちした妹のふくれっ面。これは怒ってるぞ、と身構えていると「怒ってるわよ!」と声に出され、笑いそうになるのを堪える。
「遅かったようだけど!」
「悪い、急な仕事でさ」
「今日休みって言ってたのに!」
「ごめんな」
俺の仕事はまだ売れない歌手。それでもありがたい事に、最近貰える仕事が少しずつ増えてきたところで、舞い込む仕事は事務所も断らない。今日は休みで妹と遠出する予定にしていたのだが、朝連絡が来て、仕事になったのだった。
最初はガミガミと言っていた妹は次第に勢いをなくし、目線が下がり、瞳が潤んでいる。さみしい思いをさせたのだなと思い、そっと頭を撫でると、しおれた顔で俺を見上げる。
俺はしばらく迷ってから、玄関のほうを指さして言った。
「よし、いまから行くか!」
「え?今から?」
時刻は23時を過ぎているが、まあ問題ないだろう。車を使える知り合いに手早くスマホでメッセージを送り、口を開けたままぼんやりとしている妹にほほえむ。
「まだ今日は終わってないからな」
ほんっと、しょうがないなあ!妹が笑う。畳む
NO IMAGE リュウ 愛妻の日ミクミヅSS 【AGAIN3-0-0】

「今日もね、二人ともご飯をいっぱい食べたよ。ミトも元気に動けてた。もうね、すっかり大きくなったよ」
 彼女のような美しい花をそっと供えながら、僕は笑顔で続ける。
「君が産んでくれたおかげだよ。僕は今日も幸せだった。あの子達の父親で、本当によかった」
 当然ね、と彼女が笑ったような気がして、零れそうになる涙をこらえた。泣いては彼女に心配をかけてしまうな、と、深く息を吸う。
「……」
 口を開きかけたが、言葉が音を持つことは無かった。言えるはずがなかったし、言ったところでどうなることでもなかった。わかっている。わかっているんだ、そんなことは。
 もう二度と彼女には会えない。だから、こんな気持ちを抱えていたって……。
「……でも」
 もう一度、君に触れたい。君を抱きしめたい。君に口付けをしたい。溢れる願いは叶わない。
 彼女の眠る石碑に背を向けた。闇夜でも目が利くのは彼女のおかげだ。もういない彼女は、今でも僕の中に強く深く刻み込まれている。二度と忘れることなどない。僕のこの少し冷たい体温も、時に死ぬほど愛おしくなるのは、それが彼女にもらったものだからだ。
「……ああ、今日はだめだなぁ」
 どこで隙間が空いたのだろう、心に風が入ってきて、胸が痛む。当たり前のように無視できていたことを、今日は何故だか見てしまう。隣にいない彼女の姿を見た気がして、一瞬身を震わせた自分に、笑いとも泣き声ともわからない声が出る。
「……会いたいよ、」
 この世で一番愛した人の名前が、静かに闇に飲まれていく。
 
【AGAIN3-0-0】畳む
NO IMAGE リュウ ミヅキとカイト 今日のおかず

 頭の中がぐわぐわしていた。なにも纏まらなくて、ぐちゃぐちゃで。こんな時、いつもそばにいてくれた幼馴染が隣にいない、それだけであたしは頭がぐちゃぐちゃになっていた。
 友情とか恋愛とか、主従とか民だとか、王になるとか、色々。多くの場所で役割を持つようになったあたしへ向けられるようになった感情は大きく、けれどあたしはついていけていない。
 こんな時、いつも逃げ場は幼馴染の懐だったのに。
「……会いに……行っちゃうんだから……」
 自分のやった事の責任を取る。そう言ってあたしの前から消えた幼馴染のもとへ。逃げるように。求めていく。
 世界をくぐりぬける七色の空間には、もう慣れきってしまった。

 とはいえ、幼馴染の今いる場所は城である。そう、お城。幼馴染は元々王様だったらしい。
 入口でとりあえず形式的に門番に挨拶して、城の中を歩く。どこかですれ違うなんて土台無理なくらい広い、大きな城。とりあえずあたしは彼の執務室へ向かった。顔パスとはいえ、王の執務室の前の警護はかたい。アポもない。あたしは少し離れたところで待たされることになった。
 が、やがてバタンと音を立て、空いた扉から覗いた幼馴染の姿に、あたしは走って飛びついた。ぎゅっとそのまま抱きついて、きつくきつく背中にしがみつくと、一度あたしを持ち上げるようにしてから、しっかり抱き締め返してくれる。
「……どした、何かあったのか」
「……うん」
 そうか、と深く聞かず、幼馴染はしばらくあたしを抱きしめ続けてくれていた。そのあたたかさが変わっていなかったことに安心して、あたしはちょっとだけ、そう、ほんのちょっとだけ、幼馴染の胸を借りて泣いていた。

 王が言えばいとも簡単に執務室の中へ入れてしまった。幼馴染は紅茶とクッキー、それからチョコレートをメイドさんに持ってこさせていた。ちゃんと、あたしの好きなダージリンとミルク。クッキーもチョコレートも甘くて、美味しくて。夢中になっているあたしがたまにはっとして幼馴染を見ると、そんなあたしを隣でじっと見つめていて、よく知っている優しい顔で笑う。
「気にしないで食えよ。部屋に入るなり腹の音響かせてさ」
「……って、言いながら甘いもの出してくるのね?」
「しんどい時は、ちょっと贅沢したっていい。だろ?」
「……まあ、そうね」
 あたしは紅茶のカップのふちを指でもよもよと触りながら、中身が揺れるのを見つめていた。またしばらくして、それを飲み干す。
「……聞かないの?」
 何を、とは言わずに幼馴染に聴きながら、寄りかかる。幼馴染は流れるようにあたしを受け止めながら、そうだな、と答える。
 何があったのか、聞かないのか。そうだな。別にあたしたちの間には、そう言葉は多くなくていい。なのに。
「……何故だか、不安だわ」
「不安?」
「カイトの隣にいるのに、何故だか不安なの。一番安心出来る場所だったはずなのに」
 「……そうか」
「ごめん。あたしのために時間使ったって、カイト、忙しいのに。こんなことしてる時間なんて、勿体ないのにね……」
 あたしが来てから完全に執務をしている様子はない。ガラスペンは立ったまま、書類は置いたままだ。そんなのに構わず、幼馴染はあたしをとっている。あたしとの時間を……。
「そうだな。でも、勿体ないとは思ってない。俺もお前といる時間は好きだから」
 そう言って、幼馴染もまた、あたしに少し体重を預けた。
 あたしたちは、もちろん恋人なんかじゃない。むしろ、家族のように育った。道は、別れてしまったけれど……。
「ずっと、会えなくてごめん。寂しい思いをさせてるよな」
「……なんていうか、その。あたしも、たくさん疲れて……でもそんな時、カイトがいないと空っぽだなって思っちゃった。アグノムとかミクとかはまた違って……あたし、カイトがいい、カイトの隣が。」
「……わかった。それじゃ、今日のリクエスト聞くか」
「え?リクエスト?」
「ああ」
 一瞬、なんのことかわからずに聞き返す。けれど、しばらくして思い出す。時計を見れば、あたしたちのご飯の時間が近かった。
 昔はこうして、幼馴染に夕飯のリクエストをしていたのだ。あたしは忘れていたけれど、幼馴染は……王様になっても、覚えてくれていた。
 じわ、と目元が少し熱くなるのを感じた。そのまま、口からいつものように――前のように、リクエストが出てくる。
「オムライスと、ナポリタンと、ハンバーグと、あと、あとね……からあげと……あと……」
「……それじゃあ今日はお子様ランチだな」
「も、もうお子様じゃないけど!」
「バカだな、まだまだ子供でいいんだ……お前は。……いや」
 幼馴染は、言い直しながら、あたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。
 俺たちは。

「王様が使うようなキッチンではないのです、ここは……!ああ、お召し物が、汚れてしまいます!我々がやりますから!」
「いいから、それでいいから料理をさせてほしいんです、料理長。どうして俺が立ってはいけないんですか」
「だから、王だからですよ!王というのは、自分で料理する必要なんてないんです!」
「うーん」
 王でも城で許されないことがあるらしい。厨房を借りる、と言った幼馴染に付いてきたものの、幼馴染も予想外だったのか、なかなかはいどうぞとは言えないらしい。危険だの、汚れるからだの、色々と理由をつけているが、あたしには居場所を取られることに恐怖しているようにも見えた。
 と。
「どうしたんだ」
「あ、兄王子様……」
「トキ!」
 この城の第一王子、あたしと一緒に戦ってくれていたこともある、トキだった。トキはあたしとカイトと料理長を一瞥して、ため息をつく。
「今度はなんの騒ぎなんだ。城の使用人たちが嘆いてるぞ、王様が自由すぎる、掃除もやりたがるし料理もやりたがる、と」
「その節はすみませんでした。その、そういうの好きなので……でも、今日は料理をさせてほしいんです。料理長の料理じゃなくて、俺の料理をミヅキに食べさせたい」
「……ふむ」
 トキはあたしを見る。あたしは何故だかなんとなく、カイトの服の裾を掴む。カイトはあたしの手を、そっと握った。
「……つかの間の家族ごっこを、させてくれませんか」
「……だ、そうだ、料理長。今代の王についてはもう諦めたほうがいいかもしれないな」
「そ、そんな……もしもお怪我があったら……」
「案ずるな。すべて自己責任、たとえ厨房で暗殺が行われようがお前たちに責任はない。……今日は先に休憩でも何でもしてくれ。給与には関わらないから」
「は、はい……」
 トキの言葉で諦めたのか、いやまだ諦めきれていないのか、あたしを恨めしそうな顔で見ながら料理長と、厨房の中にいた料理担当の使用人たちがぞろぞろと出ていく。
「……トキさん、俺、ちょっとだけ使わせて欲しかっただけなんですけど……こんな人払いしなくても」
 王だけど、カイトはカイト。だから、トキに敬語を使うその姿が、偉そうに変わっていなくて嬉しい。
「王に料理させる、なんて罪悪感やヒヤヒヤをあいつら全員にさせ続けるのも可哀想だろう。お前は……城の中ではいまいち気が配れないな」
「ああ、なるほど。それは失礼」
「……で、何を作るつもりだったんだ」
 トキは咎めているようではなく、興味本位のようだ。カイトはそれなりに説明する。
「そういえば、狭い客間が今日は空いていましたよね。そこで食うか」
「? 別に、いつも通りの食卓で食えばいいんじゃないのか」
「あはは、トキさんも意外とわかってないですね。……よかったら、トキさんとツバサも一緒にどうですか。お口に合うかわかりませんが……賑やかな方がいいだろ?」
 そう言ってあたしに優しくカイトが微笑む。
「……別に。今日はカイトがいれば、それでいい」
「じゃ、決まりってことで。飯が出来たら部屋まで呼ばせますから」
「……お前たちの意思の疎通は、俺には少し難易度が高いな」
 では待ってるから、と、トキは部屋へと戻って行った。それを見送って、あたしたちは城の厨房へとお邪魔する。
「そいじゃ、使わせてもらいますか。相変わらず、ひっろいな」
 俺用の狭い厨房でも作ってもらおうかな、なんて冗談を言いながら幼馴染は料理を始める。そんな姿を、あたしは眺める。
 そう、あたしは好きなのだ。この時間が。料理をしている幼馴染を見つめる時間が。少しずつ美味しそうな匂いがしてきて、あたしはいつもこの時間戦隊モノを見ていて、手伝えよ、なんて言われながら、お皿の用意をしぶしぶ手伝って。
 ――いまでは、それこそがこんなにも愛おしいのに。
「ねえ、カイト」
 手を動かしながら、なんだー、と返事が帰ってくる。
 ここは、城の厨房で。その一角を使わせてもらっているから、とても広くて。けれど。なんだかここが、元のウチの気がしてくる。
「……早く作ってよ、お腹すいたから」
「はいはい、じゃ……皿でも出して手伝ってくれ」
「……仕方ないわね」
 あたしたちは、変わらない。
 なにひとつ、変わっていない。
 幼馴染が王になろうとも。
 あたしが"王"になろうとも。
「ねえ、今日のごはんは?」
「お子様ランチ・カイト様スペシャル、だ」
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NO IMAGE リュウ クラージュ兄弟と八原兄妹の出会いの話(2017年頃)

「今日、でかけるからな」
 え?って言うと、前から言ってただろってきたにぃが後ろ向きで言う。え?ってもう一回言うと、はやく準備しろって急かされる。
「約束まであと一時間しかないからな

「約束?だれ?ゆうにぃ?りょうにぃ?あきにぃ?」
「んや、おまえは初めてだな。仕事の知り合い」
 じゃあなんであたしが、と思いながらも、寝巻きのボタンに手をかけた。
 蒸し暑い梅雨の晴れた日、昼寝の予定を返上して、知らない人に会いに行く。
 
 誰かわかんないし、とりあえずパーカーを羽織って、いつも通りのスタイルで家を出た。2人でバスに乗り、ついた先は……流行りのショッピングモール。小さな遊園地や水族館みたいなのもついていて、なんでも少しずつ楽しめるっていうのが人気だった。
 ショッピングモールの待ち合わせによく使われるのは、時刻によって噴射の仕方が変わり、音楽やライトアップで恋人達にも人気の噴水広場。あたしときたにぃはその噴水のそばに立って、誰かわからない待ち人を待っていた。暑いし人は多いし、イライラする。
「ねえ、めっちゃ人多いんだけど」
「日曜だからなぁ」
「仕事?仕事なの?」
「んや?ふつーにオフ」
「じゃーなんであたしも???」
「会ってみたい…って言ってたし、せっかくだからな。お前も、友達増えるいいチャンスかもよ」
 余計なことを言いながら、きたにぃはあたしにピースした。全然ピースじゃない。あたしはグーで返した。勝った。
 呆れた顔のきたにぃのスマホが鳴ってすぐ、こちらへ歩いてくる人影が見えた。2人。ちっちゃいのとおっきいのだ。昼間の強い日差しに照らされて、2人の金髪がキラキラと光っていた。
 金髪のおっきいほうは、きたにぃに片手をあげて、それからあたしを見て、手を振った。優しそうな笑顔。となりの小さい方はあたしを見て、その青の目をキラキラさせた。
「待たせたな」
「んや、まだ時間なってねーよ。俺らもさっき来たしな」
 な、ときたにぃに言われて、とりあえず頷いた。そんなあたしを見ながら、またおっきい人が優しく笑う。ちら、と隣を見ると、ちっちゃいほうもあたしをニコニコしながら見てる。ちっちゃいほうはあたしよりも大きかった。許せない。何を考えてるのかバレてるのか、きたにぃに頭をぐしゃぐしゃにされて、俯いた。
「…んじゃま、行く前に紹介するか。時々話すだろ、こいつ、ヤアス。俺の友達」
「ミヅキの話はキタツキからよく聞いてるよ。よろしく」
「………ドーモ」
 差し出された手を見ていると、きたにぃに手を掴まれた。引っ張られた。強制握手。…たくさん働いてる人の手だと思った。
「それでこっちが、弟のアマル」
「よろしくね、えっと、ミヅキちゃん」
 馴れ馴れしく名前を呼ぶな、と思ったところできたにぃにさっきより激しく頭をぐしゃぐしゃされて、大人しくその手をとった。…こっちもなんだか大変そうな手だな、と思った。
 きたにぃはあたしとアマルが握手をする所まで見届けて、ヤアスと目配せして、それじゃ行くかと切り出す。
「どこへ?」
 言った拍子にあたしのお腹が鳴って、恥ずかしくて頭が熱くなる。
「…まずは昼飯だな」
 きたにぃたちに流されるままに、あたしは全然知らない人たちと一緒に昼食をとることになったのだった。畳む